【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
遺言書を作ろうと調べ始めると、必ず突き当たるのが「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」という2つの方式です。「どちらを選べばよいのか」「費用や効力はどう違うのか」「公正証書のほうが効き目が強いのではないか」と、判断に迷う方は少なくありません。
最初に、多くの方が誤解しているポイントをお伝えします。法的な効力そのものに、2つの方式で差はありません。どちらも有効に成立すれば、遺言として同じ強さを持ちます。違いが生まれるのは、「無効になりにくさ」「紛失・改ざんへの強さ」「作成の手間と費用」「相続開始後の手続き」といった実務面です。
さらに近年は、2020年に始まった法務局の自筆証書遺言書保管制度や、2025年10月の公正証書のデジタル化によって、両者の使い勝手が大きく変わってきました。古い情報のまま「自筆は危険、公正証書が絶対」と考えるのは、もはや正確ではありません。
本記事では、2つの遺言方式の違いを一覧表で整理したうえで、それぞれの特徴・費用・手続き、そして「どんな人がどちらを選ぶべきか」の判断軸まで、相続実務の現場目線で詳しく解説します。
公正証書遺言と自筆証書遺言の違いを一覧で比較

まず、2つの方式の違いを一覧表で確認しましょう。細かい解説は後の章で行いますので、ここでは全体像をつかんでください。
| 比較項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成方法 | 本人が全文を自書(財産目録は例外) | 公証人が遺言者の口述をもとに作成 |
| 費用 | ほぼ無料(保管制度利用で3,900円) | 公証人手数料が数万円〜 |
| 証人 | 不要 | 2名以上が必要 |
| 無効リスク | 形式不備で無効になりやすい | ほぼゼロ |
| 紛失・改ざん | リスクあり(保管制度で解消可) | 原本が公証役場に保管され安全 |
| 家庭裁判所の検認 | 必要(保管制度利用なら不要) | 不要 |
| 秘密性 | 内容を誰にも知られない | 公証人と証人に知られる |
| 法的効力 | 有効に成立すれば同等 | 有効に成立すれば同等 |
この表を見ると、自筆証書遺言は「手軽だが無効リスクや紛失リスクがある」、公正証書遺言は「手間と費用はかかるが確実」という対照的な性格が見えてきます。ただし、後述する保管制度の登場で、自筆証書遺言の弱点はかなり補えるようになりました。
そもそも遺言書には3種類ある

民法が定める普通方式の遺言には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。
このうち実務でほとんど使われるのが、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つです。秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にしたまま存在だけを公証人に証明してもらう方式ですが、自筆証書遺言の保管制度が登場して以降は利用がさらに少なくなり、年間100件程度にとどまっています。
そのため本記事では、実務上の主役である自筆証書遺言と公正証書遺言の2つに絞って、違いを掘り下げていきます。
自筆証書遺言とは

自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自分の手で書き、押印して作成する遺言です。紙とペンと印鑑があれば、いつでも自宅で作成できます。
最大のメリットは、手軽さと費用の低さです。誰の立ち会いも要らず、思い立った日にすぐ作成でき、内容を誰にも知られないうえ、費用も基本的にかかりません。
一方で、デメリットも明確です。様式の要件が法律で細かく定められており、日付の書き方や署名・押印を一つ間違えるだけで遺言全体が無効になるおそれがあります。また、自宅で保管していると紛失や、相続人による隠匿・改ざんのリスクも避けられません。さらに、相続開始後には家庭裁判所での「検認」という手続きが必要になり、相続人に手間がかかります。
なお、2019年の法改正により、財産の一覧である「財産目録」については、パソコンでの作成や通帳コピーの添付が認められるようになりました。全文を手書きする負担は、以前より軽くなっています。
公正証書遺言とは

公正証書遺言は、公証役場の公証人が、遺言者から内容を聞き取って作成する遺言です。公証人は裁判官や検察官、弁護士などの法律実務経験者から法務大臣が任命する、いわば法律のプロです。
最大のメリットは、形式不備で無効になるリスクがほぼゼロという点にあります。法律の専門家である公証人が作成するため、様式の誤りで無効になる心配がありません。原本は公証役場に保管されるので紛失や改ざんのおそれもなく、相続開始後の検認手続きも不要です。
デメリットは、費用と手間がかかる点でしょう。公証人に支払う手数料が財産額に応じて発生し、証人2名の手配も必要になります。作成までに必要書類の収集や公証人との打ち合わせがあり、完成までに数週間から数か月を要します。また、内容を公証人と証人に知られるため、完全な秘密は保てません。
法的な「効力」に違いはない

ここが最も誤解されやすいポイントです。「公正証書遺言のほうが効力が強い」という言葉をよく耳にしますが、これは正確ではありません。
自筆証書遺言も公正証書遺言も、有効に成立すれば、遺言としての法的効力はまったく同じです。どちらの方式で書いても、「自宅を長男に相続させる」という遺言の効き目に強弱はありません。
では、なぜ「公正証書のほうが強い」と言われるのでしょうか。それは、効力そのものではなく「無効になりにくさ」と「証明力」に差があるためです。自筆証書遺言は様式の不備で無効になったり、本人が本当に書いたのか、認知症ではなかったかと争われたりするリスクを抱えます。公正証書遺言は公証人が関与するため、こうした争いが起きにくく、結果として「確実に効力を発揮しやすい」と言えるでしょう。
つまり、両者の違いは「効力の強さ」ではなく、「その効力を確実に実現できるか」という実務的な確実性にあると理解するのが正確でしょう。
費用の違い

費用面の違いは、2つの方式を選ぶうえで大きな判断材料になります。
自筆証書遺言は、基本的に費用がかかりません。紙とペンと印鑑があれば作成できます。法務局の保管制度を利用する場合でも、保管申請の手数料は1通3,900円です。
公正証書遺言では、財産を受け取る人ごとに、受け取る財産額に応じた公証人手数料(公証人手数料令で法定)を計算し、合算します。たとえば財産額が1,000万円超3,000万円以下なら26,000円となり、遺産総額が1億円以下の場合は「遺言加算」として13,000円が上乗せされます。
具体例として、配偶者に3,000万円、長男に2,000万円を相続させる内容なら、26,000円+26,000円+遺言加算13,000円で、公証人手数料はおよそ65,000円が目安になります。さらに専門家に文案作成を依頼すれば、別途報酬が発生します。
費用だけを見れば自筆証書遺言が圧倒的に安価ですが、無効になって相続争いが起きた場合の弁護士費用や時間的負担と比べれば、公正証書遺言の費用は「将来の安心を買う保険料」と捉えることもできるでしょう。
手続きと相続開始後の違い

作成後から相続開始後にかけての手続きにも、大きな違いがあります。
最も実務的に重要なのが「検認」の有無で、検認とは相続開始後に家庭裁判所が遺言書の存在と内容を確認する手続きを指します。自筆証書遺言では原則としてこの検認が必要で、数週間から1か月程度かかり、相続人全員に通知が届くため、相続手続きの着手が遅れる原因になりがちです。
公正証書遺言は、この検認が不要です。相続開始後すぐに、遺言の内容に基づいて不動産の名義変更や預金の解約に着手できます。
ただし、自筆証書遺言であっても、後述する法務局の保管制度を利用していれば検認は不要になります。この点でも、保管制度の登場が自筆証書遺言の使い勝手を大きく改善したと言えるでしょう。
2020年以降の変化と最新事情

ここ数年で、2つの遺言方式を取り巻く環境は大きく変わりました。従来の「自筆は危険」という常識は、見直しが必要になっています。
2020年7月に始まった法務局の自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言の弱点を大きく補う仕組みです。作成した自筆証書遺言を法務局に預けることで、紛失や改ざんのリスクがなくなり、相続開始後の検認も不要になります。保管申請の際には法務局の担当者が形式的な要件をチェックしてくれるため、形式不備による無効リスクも一定程度減らせるでしょう。
一方、公正証書遺言の側でも、2025年10月から公正証書のデジタル化が始まりました。Web会議システムを利用したリモート方式での作成が可能になり、高齢や病気で公証役場に出向けない方でも、自宅から遺言を作成できるようになっています。
ただし、保管制度はあくまで形式面のチェックにとどまり、遺言内容が法的に正確か、相続税や遺留分への配慮が十分かまでは審査してくれません。確実性を最優先するなら、依然として公正証書遺言が有力な選択肢であることに変わりはないでしょう。
ケース別・どちらを選ぶべきか

最終的にどちらを選ぶべきかは、財産の状況や家族関係によって変わります。実務的な判断軸を整理しておきましょう。
公正証書遺言が向いているケース
財産に不動産が含まれる、財産規模が大きい、相続人同士の関係が良くない、相続人以外の人に遺贈したい、遺言者が高齢で自書が困難、といった状況が挙げられます。これらに当てはまる場合は、無効リスクや紛争リスクを抑えられる公正証書遺言が安心です。
自筆証書遺言で足りるケース
財産が現金や預貯金中心でシンプル、相続人が少数で全員が協力的、まずは手軽に遺言を残したい、といった状況が考えられます。この場合は、法務局の保管制度をあわせて利用することで、紛失・検認の問題を解消できます。
迷ったときの考え方として、「遺言を残すこと自体が最も重要」という原則を押さえておきましょう。まずは自筆証書遺言で第一歩を踏み出し、財産が増えたり家族関係が複雑になったりしたタイミングで公正証書遺言に切り替える、という段階的なアプローチも十分に有効です。
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【この記事の監修:司法書士國松偉公子】プロフィールはこちらに掲載されています。事務所概要 – 国松司法書士法人【国分寺駅南口2分】
この記事の監修者
国松司法書士法人(クニマツシホウショシホウジン)
行政書士国松偉公子事務所
オールフォーワン土地家屋調査士事務所
代表者
國松 偉公子(簡易裁判所代理権あり)
兵庫県神戸市生まれ。神戸高校、大阪大学卒業後上京。民間企業勤務を経て司法書士資格を取得。平成12年に東京都国分寺市内で司法書士国松偉公子事務所を開業。国分寺市を中心とした東京多摩地域で、開業当初から相続に力を入れ、遺言・成年後見・家族信託という相続周りの業務含め26年間で2万件を超える相談、手続実績を重ねた。その間、ワンストップサービス実現を目指し、行政書士資格、土地家屋調査士資格を取得し、事務所を併設、合わせて司法書士事務所を法人化。ハウスメーカー、金融機関、会計事務所、不動産会社等との強固な信頼関係を築きながら、エンドユーザーである個人顧客の遺言作成支援や家族信託の組成等の生前対策に力を入れている。共著に「相続手続きと生前対策ハンドブック」「相続の基本と最新対策がわかる本」(いずれも株式会社アックスコンサルティング 出版局)「地主のための相続対策」(幻冬舎)がある。
資格
司法書士(東京司法書士会所属)、土地家屋調査士(東京土地家屋調査士会所属)
行政書士(東京都行政書士会所属)、民事信託士(一般社団法人民事信託推進センター)
成年後見人名簿・成年後見監督人名簿登載(家庭裁判所)
相続アドバイザー(NPO法人相続アドバイザー協議会)
財産管理マスター(一般社団法人日本財産管理協会)
一般社団法人家族信託普及協会会員
国分寺市政治倫理審査会元委員
国分寺市財産価格審議会委員
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