【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
親が亡くなったとき、めぼしい財産が実家しかないというご家庭は少なくありません。現金なら等分できても、家は切り分けられないためです。兄弟のうち誰が引き継ぐのか、引き継がなかった側にどう報いるのかで、話が止まってしまうご家庭は多くあります。
分け方そのものは4つに整理できます。難しいのは選択肢の数ではなく、それぞれに費用と手間と期限が付いていて、選んだ後から乗り換えにくいという点でしょう。
とりあえず共有にしておくという選択もできますが、後で動かせなくなる典型でもあります。しかも遺産分割には相続開始から10年という区切りがあり、相続登記には過料の定めがある期限が別に走っています。
ここでは4つの方法を並べたうえで、家庭裁判所まで持ち込まれた事件の統計から実際に何が選ばれているのかを確かめ、決めきれないときに何をしておけばよいのかまで整理していきましょう。相続手続き全般の流れは当事務所の別記事で扱っているため、この記事は実家という1つの不動産をどう分けるかに絞ります。
実家の分け方には4つの選択肢がある

実家の分け方は、現物分割・代償分割・換価分割・共有分割の4つです。どれを選ぶかで、実家が残るのか、現金が必要になるのか、将来の手続きが増えるのかが変わってきます。
現物分割は、財産をそのままの形で分ける方法です。土地なら分筆して兄弟がそれぞれ取得できますが、建物は物理的に切り分けられません。実家が土地と建物のセットである以上、この方法だけで完結する場面は限られます。
代償分割は、実家を1人が取得し、取得しなかった兄弟へ金銭を支払う方法でしょう。実家を残したまま公平さを保てる一方、取得する側にまとまった現金が必要になります。支払いを分割にする取り決めも可能ですが、その場合は遺産分割協議書に支払時期と方法を明記しておかなければ、後の紛争の種になってしまいます。
換価分割は、実家を売って代金を分ける方法です。金額で割り切れるため公平性は最も高くなりますが、実家が手元から消えます。誰も住まない、維持費だけがかかるという状況であれば、現実的な着地点になるでしょう。
共有分割は、持分割合を決めて全員の名義にする方法です。手続きとしては最も簡単で、その場では平等に見えます。ただし後述するとおり、先送りの代償が最も大きい選択でもあります。
もめた事件の約8割に不動産が含まれている

実家が絡む相続はもめやすいという印象は、統計でも裏づけられます。家庭裁判所で解決した遺産分割事件の約8割に土地か建物が含まれており、その多くは決して資産家の家庭ではありません。
令和6年司法統計年報(家事編)の第52表によると、認容または調停成立となった遺産分割事件7,903件のうち、現金等のみ・動産のみで構成される区分の合計は1,663件でした。残る6,240件、全体の約79%には土地か建物が含まれていた計算になります。
遺産の価額を見ると、1,000万円以下が2,810件、5,000万円以下が3,354件で、合わせて6,164件と全体の約78%を占めます。争いになるのは相続税がかかるような家庭ではなく、分けにくい実家が1つあるだけの家庭のほうが多いということでしょう。
もう1つ、分け方を考えるうえで見逃せない数字があります。同じ7,903件のうち、代償金を支払う旨の定めがされたものが5,717件、約72%にのぼりました。実家という分けられない財産を前にしたとき、裁判所の手続きでも代償金による調整が主流になっているという事実です。
つまり4つの方法は横並びの選択肢ではありません。実家が主な遺産である家庭では、実務上は代償分割か換価分割のどちらかに収れんしていくと考えておくほうが、話し合いの見通しは立てやすくなります。
共有で分けると後から動かせなくなる

とりあえず共有にするという選択は、決断を先送りしているだけです。共有にした瞬間に、実家は自分1人では動かせない財産に変わります。
まず、売却には共有者全員の同意が要ります。兄弟3人のうち2人が売りたくても、1人が反対すれば実家は売れません。賃貸に出す、大規模な修繕をするといった行為にも持分の過半数の同意が必要で、単独でできるのは保存行為に限られます。
次に、時間が経つほど共有者が増えていきます。兄弟の誰かが亡くなればその持分は配偶者や子へ相続され、当初3人だった共有者が5人、8人と枝分かれしていくのが典型です。全員と連絡を取ることさえ難しくなり、実家は事実上動かせなくなってしまいます。
自分の持分だけを第三者に売ることは、他の共有者の同意なくできる点も知っておいてください。持分を買い取る業者に渡ってしまえば、共有物分割請求という形で裁判所での解決を迫られる可能性が生じます。兄弟のあいだで築いた合意が、当事者の交代によって崩れてしまうかもしれません。
放置した実家が次の相続を招く構図については、こちらの記事も参考になります。
相続開始から10年を過ぎると分け方の前提が変わる

遺産分割そのものに期限はありませんが、相続開始から10年を過ぎると分け方の基準が変わります。特別受益や寄与分を主張できなくなり、法定相続分での分割になるのが原則です。
法務省の具体的相続分による遺産分割の時的限界によれば、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく法定相続分または指定相続分によることになります。令和3年の民法改正で新設された民法904条の3の内容で、令和5年4月1日から始まっています。
影響を受けるのは、生前に多くの援助を受けた兄弟がいる場合や、親の介護を1人が担っていた場合でしょう。10年以内であれば特別受益や寄与分として調整できたものが、期間を過ぎると考慮されず、単純に頭数で割った割合が基準になります。介護を担った側にとっては不利に働く改正です。
例外もあります。10年を経過する前に家庭裁判所へ遺産分割を請求していた場合や、やむを得ない事由で請求できなかった場合には、引き続き具体的相続分による分割を求められます。相続人全員が合意すれば、10年経過後でも具体的相続分で分けることは可能です。
なお改正法は施行日より前に開始した相続にも及びますが、経過措置として施行時から一定期間の猶予が設けられています。親が亡くなってから何年も経っている実家がある場合は、残り時間を早めに確認しておきましょう。
分け方が決まらなくても相続登記の期限は待ってくれない

話し合いが長引いても、相続登記の申請義務は別に進みます。期限を過ぎると10万円以下の過料の対象になるため、分け方の結論とは切り離して手を打っておく必要があります。
法務省の相続登記の申請義務化に関するQ&Aによれば、相続登記の義務化は令和6年4月1日から始まり、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記をしなければなりません。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の範囲で裁判所が過料を決定します。
見落とされやすいのが、過去の相続にもさかのぼって適用される点です。令和6年4月1日より前に相続したことを知った不動産で登記がされていないものについては、令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります。何十年も名義がそのままになっている実家は、まさにこの対象です。
では分け方が決まらない場合にどうすればよいのかというと、ここで使えるのが相続人申告登記になります。同じQ&Aは、自らが登記簿上の所有者の相続人であることを期限内に登記官へ申し出ることで義務を履行できる制度であり、特定の相続人が単独で申し出られると説明しています。兄弟の合意を待たずに1人で動ける点が、この制度の要でしょう。
ただし相続人申告登記は義務を果たすための暫定的な手続きであって、権利関係を確定させるものではありません。分け方が決まった後に、あらためて相続登記を申請する流れになります。費用の全体像については、こちらの記事も参考になります。
実家を現物で分けるときに必要になる手続き
現物分割を選ぶ場合、土地を分筆する前に境界を確定させる作業が入ります。ここを飛ばすと登記が通らず、話がまとまってから足止めを食うことになります。
分筆の登記を申請するには、隣接する土地の所有者と境界を確認し、測量した図面を添えなければなりません。隣地の所有者が遠方にいる、すでに亡くなって相続人が確定していないといった事情があると、確認だけで数か月かかる場合があります。古い住宅地では、登記簿の面積と実測の面積が食い違っていることも珍しくありません。
分けた後の使い勝手も検討が要ります。間口が狭くなって建物を再建築できない土地が生まれれば、その土地の価値は大きく下がります。等しい面積で分けたつもりが、価値の面では不公平になっていたという結果は避けたいところです。
国松司法書士法人は司法書士・行政書士・土地家屋調査士のトリプルライセンス体制で、相続と遺言の相談と手続きに27年目、累計20,000件を超える案件を扱ってきました。遺産分割協議書の作成と相続登記に加えて、分筆に必要な測量と境界確定まで同じ窓口で進められるため、現物分割を検討する段階で「登記はできるが測量は別の事務所へ」という分断が起きません。
兄弟で話がまとまらないときの進め方
感情の対立に見える場面でも、実際には情報が足りていないだけということがよくあります。実家の評価額、代償金の目安、売却した場合の手取りを先にそろえてください。議論の軸はそこから定まっていきます。
不動産の評価には複数の基準があり、固定資産税評価額、路線価、実勢価格のどれを使うかで代償金の額が変わります。どの基準を採るかを先に合意しておけば、金額の交渉が始まってから前提が揺れる事態を防げるでしょう。
話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停という道があります。ただし時間はかかります。令和6年司法統計年報の第53表によれば、認容・調停成立となった7,974件のうち、1年を超えたものが3,323件で全体の約4割にのぼりました。同じ表では、代理人弁護士が関与した事件が6,733件と約84%を占めています。
調停に進めば費用も時間も膨らむため、協議の段階で第三者を入れて論点を整理するほうが、結果として早く安く収まる場面も多いでしょう。
実家の相続でよくある質問
実家に住んでいる兄弟がいる場合はどう分けますか?
住んでいる人が実家を取得し、他の兄弟へ代償金を支払う代償分割が基本の形になります。支払う現金が用意できない場合は、支払時期をとり決め分割払いにする、他の遺産で調整するといった方法があります。住み続けたい意向だけで他の相続人の取り分を消せるわけではありません。
代償金はいくら払えばよいのでしょうか?
実家の評価額に他の相続人の相続分を掛けた額が目安になります。評価額をどの基準で出すかは相続人の合意によりますが、実際に売るつもりがないなら固定資産税評価額や路線価、売却も視野に入れるなら査定価格を使う例が多いといえます。基準を先に決めておいてください。
相続登記をしないまま何年も経っている実家はどうなりますか?
令和6年4月1日より前に相続を知った不動産は、令和9年3月31日までに相続登記が必要です。分け方が決まっていなければ、相続人申告登記で義務を果たしておく方法があります。放置している間に次の相続が起きると、相続人が増えて手続きの難易度が上がってしまいます。
兄弟の1人が話し合いに応じない場合はどうなりますか?
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要なため、1人でも応じなければ協議は成立しません。その場合は家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てることになります。連絡が取れない相続人がいる場合は、不在者財産管理人の選任など別の手続きが必要になります。
実家を売って分ける場合、税金はかかりますか?
売却益が出れば譲渡所得税の対象になります。相続した空き家を売る場合の特例など、要件を満たせば控除を受けられる制度もありますが、適用の判断は税理士の領域です。売却の方針を決める段階で、税務の確認も並行して進めておきましょう。
遺言書があれば分け方でもめずに済みますか?
もめる可能性は大きく下がります。ただし遺留分を侵害する内容だと、金銭の請求という形で争いが残ります。実家を特定の子に継がせたい場合は、他の相続人への配慮を含めて設計しておくほうが確実です。
実家の相続と分け方のご相談は国松司法書士法人へ
実家の分け方は、4つの選択肢から1つを選ぶ問題に見えて、実際には評価額の合意、代償金の資金繰り、登記の期限という3つの実務が同時に動きます。順番を整理すれば、決めるべきことは思ったより少なくなります。
国松司法書士法人は、相続と遺言のご相談を27年にわたってお受けしてきました。司法書士・行政書士・土地家屋調査士のトリプルライセンス体制のため、遺産分割協議書の作成から相続登記、現物分割に伴う測量と分筆まで、窓口を分けずにご相談いただけます。
国分寺市や国立市、府中市、小平市、小金井市といった多摩エリアはもちろん、兄弟が別々の地域に暮らしている場合にも全国対応で取り組んでいます。誰が実家を継ぐか決まっていない、話を切り出す前に見通しだけ知りたいという段階でも構いません。
初回のご相談は無料です。実家の登記事項証明書と固定資産税の納税通知書をお持ちいただければ、取りうる分け方と、いま押さえるべき期限をお伝えします。
参考文献
1. 最高裁判所「令和6年司法統計年報(家事編)」 https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/shihotokei_search/list/index.html?filter%5Btype%5D=1&filter%5ByYear%5D=2025&filter%5ByCategory%5D=3&filter%5BmYear%5D=&filter%5BmMonth%5D=&filter%5BmCategory%5D=
2. 法務省「具体的相続分による遺産分割の時的限界」 https://www.moj.go.jp/content/001372212.pdf
3. 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
プロフィールはこちらに掲載されています。事務所概要 – 国松司法書士法人【国分寺駅北口4分】
この記事の監修者
国松司法書士法人(クニマツシホウショシホウジン)
行政書士国松偉公子事務所
オールフォーワン土地家屋調査士事務所
代表者
國松 偉公子(簡易裁判所代理権あり)
兵庫県神戸市生まれ。神戸高校、大阪大学卒業後上京。民間企業勤務を経て司法書士資格を取得。平成12年に東京都国分寺市内で司法書士国松偉公子事務所を開業。国分寺市を中心とした東京多摩地域で、開業当初から相続に力を入れ、遺言・成年後見・家族信託という相続周りの業務含め26年間で2万件を超える相談、手続実績を重ねた。その間、ワンストップサービス実現を目指し、行政書士資格、土地家屋調査士資格を取得し、事務所を併設、合わせて司法書士事務所を法人化。ハウスメーカー、金融機関、会計事務所、不動産会社等との強固な信頼関係を築きながら、エンドユーザーである個人顧客の遺言作成支援や家族信託の組成等の生前対策に力を入れている。共著に「相続手続きと生前対策ハンドブック」「相続の基本と最新対策がわかる本」(いずれも株式会社アックスコンサルティング 出版局)「地主のための相続対策」(幻冬舎)がある。
資格
司法書士(東京司法書士会所属)、土地家屋調査士(東京土地家屋調査士会所属)
行政書士(東京都行政書士会所属)、民事信託士(一般社団法人民事信託推進センター)
成年後見人名簿・成年後見監督人名簿登載(家庭裁判所)
相続アドバイザー(NPO法人相続アドバイザー協議会)
財産管理マスター(一般社団法人日本財産管理協会)
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国分寺市政治倫理審査会元委員
国分寺市財産価格審議会委員
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