【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
数次相続の手続きは、亡くなった順番ごとに相続を切り分け、それぞれの相続について相続人を確定させるところから始まります。手続きが二重三重に重なって見えても、進める順序そのものは決まっています。
祖父の名義のままになっている土地を調べたら、その後に父も亡くなっていて、相続人が自分だけではなかったと分かる場面は珍しくありません。こうした状態が数次相続で、通常の相続とは必要書類も登記の申請方法も変わってきます。
相続手続き全般を自分で進めるリスクは当事務所の別記事で扱っているため、ここでは数次相続に特有の論点に絞ります。2027年3月31日という過去の相続の登記期限が迫っている点も、あわせて確認してください。
数次相続とは何か、代襲相続や再転相続との違い

数次相続とは、ある人の相続手続きが終わらないうちに、その相続人が亡くなって次の相続が重なった状態をいいます。読み方は「すうじそうぞく」で、最初に発生した相続を一次相続、次に発生した相続を二次相続と呼びます。
父が亡くなり、遺産分割協議が済まないうちに母が亡くなった場合、父の相続が一次相続、母の相続が二次相続です。父の遺産について協議する権利は母から子へ引き継がれるため、子は自分自身の立場と母から引き継いだ立場の両方で協議に参加しなければなりません。
数次相続と代襲相続の違い
数次相続と代襲相続を分けるのは、亡くなった順序です。被相続人よりも先に相続人が亡くなっていれば代襲相続、被相続人より後に亡くなっていれば数次相続になります。
代襲相続では、亡くなった相続人の子が親の立場をそのまま引き継ぎ、その配偶者は相続人になりません。一方の数次相続では、いったん相続人になった人の権利がその人の相続人全員へ引き継がれるため、配偶者にも権利が移って関係者が増えやすくなります。
同じ家族関係でも死亡日が数日違うだけで結論が変わるため、戸籍で日付を確認するまでは断定できません。
再転相続や相次相続との関係
再転相続は、数次相続のうち相続放棄を選べる期間中に相続人が亡くなった場合を指す呼び方で、民法916条が定める場面です。相次相続は短い期間に相続が続いたことを税金の面から捉えた言葉で、相続税の相次相続控除という制度名で使われます。
数次相続が何次まで続くのかという上限はありません。三次、四次と重なった状態で相談に来られる方もいて、関係する相続の数だけ相続人の確定作業が必要になるでしょう。
数次相続を放置すると起きること

数次相続を放置する最大のデメリットは、相続人が世代ごとに枝分かれして増え、全員の合意を取り付けることが難しくなる点にあります。時間が経つほど選択肢が減る性質の問題であって、待って有利になる要素はほとんどありません。
法務省が全国10か所の地区で約10万筆を対象に行った相続登記未了土地の調査では、最後の登記から50年以上が経過した土地が大都市地域で6.6パーセント、中小都市や中山間地域では26.6パーセントを占めていました。
なぜ放置が難しさを生むのかというと、相続人が1人亡くなるたびに、その配偶者と子へ権利が分岐するからです。当初は3人で話し合えばよかった土地が、二次相続と三次相続を経て10人を超えることも起こりえます。面識のない親族に押印を求める場面では、説明と信頼づくりに時間がかかるでしょう。
遺産分割そのものにも期限があります。相続開始から10年を過ぎると特別受益や寄与分を主張できなくなり、法定相続分どおりに分けることになりますが、法務省の案内のとおり2018年3月末までに開始した相続については2028年3月31日までという経過措置が設けられました。
相続登記の義務化で期限が決まっている
相続登記は2024年4月1日から申請が義務になりました。法務省の相続登記の申請義務化に関するQ&Aによれば、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく怠ったときは10万円以下の過料の対象になります。
見落としやすいのが過去の相続の扱いです。2024年4月1日より前に相続したことを知っていた不動産については、2027年3月31日までに登記をしなければなりません。何十年も名義がそのままの土地はまさにこの経過措置の対象になるため、残された時間はわずかだとお考えください。
相続人申告登記だけでは義務を果たしきれない
期限内に登記が間に合わないときは、自分が登記名義人の相続人であることを法務局に申し出る相続人申告登記という受け皿があります。ただし法務省の解説のとおり、遺産分割が成立した場合には成立した日から3年以内に所有権移転登記を申請する義務が別に残り、申告登記で果たせるのは基本的な義務だけです。
権利関係を公示するものでもないため、売却や担保設定の段階では正式な相続登記が必要になります。時間を稼ぐ手段として使えても、解決そのものは先送りになるでしょう。
数次相続の手続きの流れと必要書類

数次相続の手続きは、相続を発生順に切り分けて、それぞれについて相続人を確定させることから始めます。ここを飛ばして遺産分割の話を進めても、後から相続人が判明した時点で協議はやり直しになってしまいます。
最初に行うのは戸籍の収集です。一次相続の被相続人について出生から死亡までの戸籍一式を集め、続いて二次相続の被相続人についても同じようにそろえます。古い相続では手書きの改製原戸籍にさかのぼることも多く、本籍地が転々としていれば収集だけで数か月かかるでしょう。
相続人が確定したら、法定相続情報一覧図を作っておくと後が楽になります。数次相続では一次相続と二次相続それぞれについて作成するのが原則ですが、金融機関が複数あっても戸籍の束を順番に回さずに済むため、手続きを同時並行で進められます。
不動産の名義変更では、被相続人の住民票の除票または戸籍の附票、不動産を取得する方の住民票、固定資産評価証明書、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書を添えてください。相続人が海外に居住している場合は印鑑証明書の代わりにサイン証明が必要になるため、取得までの日数を見込んでおきましょう。
相続手続きを専門家に任せるべきか迷っている段階の方は、こちらの記事も参考にしてください。
数次相続の遺産分割協議書の書き方
数次相続の遺産分割協議書は、原則として一次相続と二次相続で別々に作成し、中間で亡くなった方の肩書を「相続人兼被相続人」と表示します。
一次相続の協議書には、最初に亡くなった方を被相続人として記載し、その相続人の1人として中間で亡くなった方を相続人兼被相続人と書きます。すでに亡くなっている方は署名も押印もできないため、署名欄にはその方の相続人が「相続人兼何某の相続人」という肩書で署名するという形になるでしょう。
一次相続と二次相続の相続人がすべて同じ顔ぶれであれば、1通にまとめて作成しても構いません。父が亡くなった後に母が亡くなり、相続人が子だけというような形であれば、押印の回数を減らせます。
同じ協議書は金融機関や証券会社の手続きにも使うため、不動産だけでなく預貯金や有価証券の帰属まで書き込んでおいてください。数次相続では押印を求める相手が多く、書式の不備が分かるのが全員分そろった後という事態は避けたいところです。
数次相続の相続登記と中間省略登記

数次相続の相続登記は、亡くなった順に登記を重ねる2件申請が原則で、中間の相続が単独相続であるときに限り1件にまとめられます。昭和30年12月16日民事甲第2670号という登記先例で確立した取扱いです。
単独相続には、もともと相続人が1人だった場合だけでなく、遺産分割や相続放棄の結果としてその不動産を1人が取得した場合も含まれます。反対に中間の相続で複数人が共有のまま引き継いだ場合は省略できず、順番どおりに2件申請しなければなりません。
登録免許税が免除される仕組み
数次相続の費用を考えるうえで最も見落とされているのが、中間の相続人名義にする登記の登録免許税でしょう。法務局が公表している免税措置によると、相続で土地を取得した個人がその相続登記を受ける前に亡くなった場合、その方を登記名義人とする相続登記には登録免許税がかかりません。
注意したいのは根拠となる条番号です。この免税措置は長く租税特別措置法84条の2の3として案内されてきましたが、2026年4月1日から84条の2の2に変わりました。申請書には「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」と記載する必要があり、旧条番号のまま提出すると補正を求められる可能性があります。
インターネット上の解説記事には古い条番号のまま更新されていないものが残っているため、自分で申請するなら法務局の案内で現在の表記を確認してください。適用期限が2027年3月31日までである点も見落とせません。
中間省略ができなくても費用の差は小さい
中間省略登記ができないと大きく損をすると考えている方は多いのですが、登録免許税の面では差がわずかです。前述の免税措置により、中間の登記の登録免許税は土地であれば0円になります。
差が出るのは主に手間と専門家への報酬でしょう。ただし免税の対象は土地に限られるため、土地と建物が一体で残っている実家の相続では、建物の分だけ二重に登録免許税がかかる計算になります。
数次相続の相続税と相続放棄で気を付けること
相続税の申告期限は原則として亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内ですが、数次相続では中間で亡くなった方の分だけ期限が延びます。延長されるのは二次相続の相続人が一次相続について申告する場合に限られ、他の相続人の期限は延びません。
基礎控除額は一次相続の発生時点における法定相続人の数で計算するため、中間で相続人が亡くなっても金額は変わりません。10年以内に相続が続いた場合は国税庁の相次相続控除が使え、前回課された相続税額を1年につき10パーセントの割合で減らした金額を差し引けます。
相続放棄を考えるときは、熟慮期間の起算点に注意しましょう。民法916条について最高裁判所は令和元年8月9日の判決で、自分が前の相続人の立場を引き継いだことを知った時点から3か月を数えると判断しました。二次相続を放棄すると一次相続について承認や放棄を選ぶ立場そのものを失うと解されているため、負債が絡む場合は戸籍の収集より先に検討してください。
数次相続はどこに相談すればよいか

数次相続の相談先は、不動産の名義変更が絡むなら司法書士、相続税の申告が必要なら税理士、相続人同士で争いがあるなら弁護士という切り分けになります。多くの数次相続は不動産の名義が入口になるため、司法書士から相談を始めるほうが近道になりやすいでしょう。
司法書士が担うのは、戸籍による相続人の確定、法定相続情報一覧図の作成、遺産分割協議書の文案作成、そして相続登記の申請です。数次相続で時間がかかるのは相続人の確定と書類の収集であって、そこは司法書士の業務範囲と重なります。
相談の際は、固定資産税の納税通知書があれば不動産の所在と評価額の見当がつきます。権利証が見つからなくても手続きは進められるため、探すことに時間を使いすぎないでください。
国松司法書士法人は司法書士と行政書士、土地家屋調査士のトリプルライセンス体制で、相続と遺言の相談と手続きに27年目、累計20,000件を超える案件を扱ってきました。数次相続では古い土地の登記記録と現況が食い違うこともありますが、土地の表示に関する登記まで自事務所内で対応できるため、相談窓口が分散しません。
どのタイミングで司法書士に相談すべきか迷っている方は、こちらの記事も参考にしてください。
数次相続についてよくある質問
数次相続は何次まで続きますか?
回数に上限はありません。手続きが終わらないまま相続人が亡くなり続ければ、三次相続や四次相続として重なっていきます。次数が増えるほど戸籍の収集量と関係者の人数は増えていくでしょう。
数次相続の遺産分割協議書は何通作成しますか?
原則として相続の数だけ作成し、一次相続と二次相続があるなら2通が基本です。一次相続と二次相続の相続人がすべて同じ顔ぶれであれば、1通にまとめても構いません。
数次相続の相続登記は必ず2件申請になりますか?
中間の相続が単独相続であれば1件で済みます。中間で複数人の共有になった場合は省略できませんが、土地については中間の登記の登録免許税が免除されるため、税額の面での不利はほとんどありません。
数次相続を放置していると過料を科されますか?
正当な理由なく期限内に申請しなかった場合は、10万円以下の過料の対象になります。2024年4月1日より前に相続を知っていた不動産の期限は2027年3月31日です。
数次相続の手続きにはどれくらいの期間がかかりますか?
相続人が少なく戸籍もそろっていれば数か月で登記まで終わりますが、相続人が10人を超えて本籍地が各地に散っている場合は、戸籍の収集だけで半年近くかかることもあります。所在の分からない相続人がいれば、家庭裁判所の手続きが加わると考えておきましょう。
数次相続の手続きのご相談は国松司法書士法人へ
数次相続は、放置した期間の長さがそのまま手続きの重さになって表れます。相続人が増える前に着手できれば必要な書類も費用も抑えられますが、期限だけは待ってくれません。
国松司法書士法人は、2026年8月25日よりJR国分寺駅北口から徒歩4分の事務所で、相続と遺言のご相談を27年にわたってお受けしてきました。相続人の確定から遺産分割協議書の作成、相続登記、土地の表示に関する登記までを一つの窓口で進められます。
国分寺市や国立市、府中市、小平市、小金井市といった多摩エリアはもちろん、遠方にお住まいの相続人が含まれる案件にも全国対応で取り組んでいます。何十年も前の相続が残っている、相続人が誰なのか分からないという段階でも構いません。
初回のご相談は無料です。固定資産税の納税通知書など手元にある資料をお持ちいただければ、その場で進め方の見通しをお伝えします。
参考文献
1. 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
2. 法務省「相続登記の申請義務化について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
3. 法務省「不動産登記簿における相続登記未了土地調査について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00291.html
4. 法務省「不動産を相続した方へ 相続登記・遺産分割を進めましょう」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00435.html
5. 法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000017.html
6. 国税庁「No.4168 相次相続控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4168.htm
【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
プロフィールはこちらに掲載されています。事務所概要 – 国松司法書士法人
この記事の監修者
国松司法書士法人(クニマツシホウショシホウジン)
行政書士国松偉公子事務所
オールフォーワン土地家屋調査士事務所
代表者
國松 偉公子(簡易裁判所代理権あり)
兵庫県神戸市生まれ。神戸高校、大阪大学卒業後上京。民間企業勤務を経て司法書士資格を取得。平成12年に東京都国分寺市内で司法書士国松偉公子事務所を開業。国分寺市を中心とした東京多摩地域で、開業当初から相続に力を入れ、遺言・成年後見・家族信託という相続周りの業務含め26年間で2万件を超える相談、手続実績を重ねた。その間、ワンストップサービス実現を目指し、行政書士資格、土地家屋調査士資格を取得し、事務所を併設、合わせて司法書士事務所を法人化。ハウスメーカー、金融機関、会計事務所、不動産会社等との強固な信頼関係を築きながら、エンドユーザーである個人顧客の遺言作成支援や家族信託の組成等の生前対策に力を入れている。共著に「相続手続きと生前対策ハンドブック」「相続の基本と最新対策がわかる本」(いずれも株式会社アックスコンサルティング 出版局)「地主のための相続対策」(幻冬舎)がある。
資格
司法書士(東京司法書士会所属)、土地家屋調査士(東京土地家屋調査士会所属)
行政書士(東京都行政書士会所属)、民事信託士(一般社団法人民事信託推進センター)
成年後見人名簿・成年後見監督人名簿登載(家庭裁判所)
相続アドバイザー(NPO法人相続アドバイザー協議会)
財産管理マスター(一般社団法人日本財産管理協会)
一般社団法人家族信託普及協会会員
国分寺市政治倫理審査会元委員
国分寺市財産価格審議会委員
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