【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
子がいない夫婦の場合、配偶者が財産をすべて引き継ぐと思われている方は少なくありません。実際には、亡くなった方の親か兄弟姉妹が配偶者と並んで相続人になります。
配偶者は、義理の親や義理の兄弟姉妹と遺産分割協議をすることになります。長く会っていない相手や、一度も会ったことのない甥や姪が加わることもあり、住んでいる家の名義さえ動かせない状況も生まれるでしょう。
ただし、この構造には抜け道が用意されています。兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言さえ残しておけば配偶者にすべてを引き継がせられるでしょう。子がいる家庭では実現できない、この家族構成に固有の選択肢です。
ここでは誰が相続人になるのかを順位から整理し、甥や姪まで及ぶ範囲、遺留分がないことの意味、そして今からできる備えまで見ていきましょう。遺言の種類や書き方そのものは当事務所の別記事で扱っているため、この記事は子がいない夫婦という家族構成に絞ります。
子がいない夫婦の相続人は配偶者だけとは限らない

配偶者は常に相続人になりますが、それ以外に誰が加わるかは順位で決まります。子がいなければ第2順位の親、親もいなければ第3順位の兄弟姉妹へと下りていく仕組みです。
国税庁の案内によれば、第1順位は死亡した人の子供で、既に死亡している場合はその子供の直系卑属が相続人になります。第2順位は父母や祖父母などの直系尊属で、第1順位の人がいないときに相続人になるという順序でした。
第3順位が兄弟姉妹で、第1順位の人も第2順位の人もいないときに相続人になります。子がいない夫婦で、親もすでに他界しているという状況は珍しくないため、実際には兄弟姉妹が相続人になるケースが多くを占めます。
ここで注意したいのが、順位は「いるかいないか」だけで決まるという点でしょう。何十年も交流のない兄弟姉妹であっても、法律上の順位が上の相続人がいなければ自動的に相続人になります。関係の濃さは考慮されません。
親が健在であれば、相続人は配偶者と親になります。親と兄弟姉妹が同時に相続人になることはないため、この場合に兄弟姉妹は登場しません。まずはご自身の家族構成でどの順位まで下りるのかを確かめてください。
法定相続分は誰と相続するかで変わる

配偶者の取り分は固定ではありません。誰と一緒に相続するかによって、2分の1から4分の3まで変わります。
同じ国税庁の案内は、配偶者と子供の場合は配偶者2分の1、子供が全員で2分の1としています。配偶者と直系尊属の場合は配偶者3分の2で直系尊属が全員で3分の1、配偶者と兄弟姉妹の場合は配偶者4分の3で兄弟姉妹が全員で4分の1という配分です。
子がいない夫婦にとって重要なのは、兄弟姉妹が相続人になったときの4分の1という数字でしょう。財産が自宅しかない家庭では、この4分の1を現金で用意できるかどうかが問題になります。用意できなければ、住み続けるために家を売るという選択を迫られかねません。
兄弟姉妹が複数いれば、4分の1をその人数で分けます。3人いれば1人あたり12分の1です。1人あたりの額は小さくなりますが、協議に参加する人数は増えるため、話をまとめる手間はむしろ大きくなっていきます。
甥や姪まで相続人になることがある

兄弟姉妹がすでに亡くなっていても、相続人がいなくなるわけではありません。その子である甥や姪が代わりに相続人になります。ただし、この代襲は一代限りです。
国税庁の案内は、第1順位について、子供が既に死亡している場合はその子供の直系卑属が相続人になると説明しています。子から孫、孫からひ孫へと、世代を下って続いていく仕組みです。
これに対して兄弟姉妹の場合は書きぶりが変わります。同じ案内は、兄弟姉妹が既に死亡しているときはその人の子供が相続人になると記しており、甥や姪までで止まる形です。甥や姪も亡くなっていれば、その子は相続人になりません。
実務で重いのは、甥や姪が相続人になったときの負担です。配偶者から見れば、配偶者の兄弟姉妹の子という関係になります。会ったことがない相手と遺産分割協議をし、署名と実印、印鑑証明書をもらう必要が生じるためです。
さらに、兄弟姉妹が相続人になる場合は戸籍を集める作業も重くなります。被相続人の兄弟姉妹を確定するには、被相続人だけでなくその両親の出生から死亡までの戸籍まで必要になるからです。2024年3月に始まった戸籍の広域交付は直系の戸籍が対象で、兄弟姉妹の戸籍は含まれません。
税負担の面でも差が出ます。国税庁の案内によれば、被相続人の配偶者、父母、子ではない人が相続で財産を取得した場合、相続税額に2割が加算されます。兄弟姉妹や甥姪として相続人になった人は、この2割加算の対象です。同じ額を受け取っても、手元に残る額は子が相続する場合より少なくなってしまいます。
兄弟姉妹には遺留分がないという意味

遺言があれば、この構造は変えられます。兄弟姉妹には遺留分がないため、配偶者にすべてを相続させる遺言を残しても、後から取り分を請求されることがありません。
法務省の相続に関するルールが大きく変わりますは、遺留分について「兄弟姉妹以外の相続人について、その生活保障を図るなどの観点から、最低限の取り分を確保する制度」と説明しています。この兄弟姉妹以外という限定が、子がいない夫婦にとって決定的な意味を持つでしょう。
子がいる家庭では、特定の相続人にすべてを残す遺言を書いても、他の子から遺留分侵害額を請求される可能性が残ります。ところが相続人が配偶者と兄弟姉妹だけであれば、請求できる人が存在しません。遺言の内容がそのまま実現するというわけです。
なお、相続人が配偶者と親になる場合は事情が違います。直系尊属には遺留分があるため、すべてを配偶者に残す遺言を書いても、親から遺留分侵害額を請求される可能性が残るとお考えください。親が健在かどうかで、遺言の効き方が変わってきます。
遺言の形式については、公正証書遺言と自筆証書遺言の違いを整理した記事も参考になります。
遺言がなければ配偶者は全員と話し合うことになる

遺言がない場合、配偶者は相続人全員の同意を集めなければ何も動かせません。預金の解約も自宅の名義変更も、1人でも欠けた協議では成立しないためです。
まず、義理の兄弟姉妹や甥姪に連絡を取ることから始まります。配偶者にとっては、夫や妻を亡くした直後に、疎遠な親族へ相続の話を切り出す場面です。心理的な負担は小さくありません。
次に、戸籍の収集が待っています。前述のとおり両親の戸籍までさかのぼる必要があり、本籍が転々としていれば取得先も増えていきます。相続人が確定するまでに数か月かかることも珍しくないでしょう。
そして、自宅しか財産がない場合には代償金の問題が生じます。配偶者が自宅を取得する代わりに、兄弟姉妹の取り分にあたる金銭を支払う形です。手元に現金がなければ、自宅を売って分けるという選択しか残らない場合もあります。
最後に、時間が経つほど相続人が増えるという問題も待っています。協議が長引くうちに兄弟姉妹が亡くなれば、その配偶者や子が新たに加わるためです。放置している間に、相手の人数は静かに増えていくと考えてください。
子がいない夫婦が今からできる備え
備えの中心は遺言です。あわせて、遺言執行者の指定と配偶者居住権の検討まで済ませておくと、残された側の手続きが軽くなります。
遺言は、夫婦それぞれが書いてください。どちらが先に亡くなるかは分からないためです。互いに全財産を相続させる内容を、それぞれの遺言に書いておく形が基本になります。
配偶者居住権も選択肢に入ります。法務省の同じ資料によれば、2020年4月1日から、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、遺産分割において配偶者居住権を取得することで、終身または一定期間その建物に無償で居住できるようになりました。所有権を手放しても住み続けられるため、代償金を用意できない場合の逃げ道になります。
遺言の作り方としては、公正証書遺言が選ばれています。日本公証人連合会の集計では、令和7年に作成された遺言公正証書は123,891件でした。前年の128,378件からはやや減っているものの、年間12万件を超える水準が続いています。
法務局の自筆証書遺言書保管制度も広がってきました。法務省の遺言書保管制度の利用状況によれば、2020年7月の制度開始から令和8年7月までの保管申請の累計は127,253件です。6年間の累計が公正証書遺言のおよそ1年分にあたる規模で、遺言といえば公正証書という状況は今も変わっていません。
遺言を書くときに落としやすい点
遺言を書いただけでは足りない場面があります。誰が手続きを進めるのか、配偶者が先に亡くなったらどうするのかまで決めておいてください。
遺言執行者を指定しておくと、預金の解約や不動産の名義変更を執行者が単独で進められます。指定がなければ、相続人が自ら金融機関や法務局とやり取りすることになり、疎遠な親族の協力が必要になる場面も出てきます。
予備的遺言も入れておきましょう。配偶者にすべてを相続させると書いても、配偶者が先に亡くなっていればその部分は効力を持ちません。その場合に誰へ渡すのかを書き添えておけば、結果として無効になる事態を避けられます。
財産目録を作っておくことも実務上の助けになります。どこにどの財産があるのかが分からなければ、残された配偶者は探すところから始めなければなりません。通帳や証券会社、保険の一覧を遺言と一緒に保管しておいてください。
遺言執行者の役割と選び方については、こちらの記事も参考になります。
<関連記事>
遺言執行者が必要なケースとは?役割・権限・依頼先の選び方
子がいない夫婦の相続でよくある質問
配偶者が全部相続すると聞いたのですが違うのですか?
違います。配偶者が単独で相続するのは、第2順位の直系尊属も第3順位の兄弟姉妹もいない場合に限られました。親か兄弟姉妹が1人でも健在であれば、その人と配偶者が共同で相続人になります。
兄弟姉妹と絶縁している場合でも相続人になりますか?
なります。相続人の順位は法律で決まっており、交流の有無や関係の良し悪しは影響しません。絶縁状態であっても遺産分割協議には参加してもらう必要があるため、遺言で対応しておくほうが確実です。
配偶者にすべてを残す遺言を書いても大丈夫ですか?
相続人が配偶者と兄弟姉妹だけであれば、兄弟姉妹に遺留分がないため、そのまま実現します。ただし親が健在で相続人になる場合は、直系尊属に遺留分があるため請求される可能性が残ります。ご自身の家族構成を確認してから内容を決めてください。
夫婦のどちらか一方だけ遺言を書けばよいですか?
両方に書いておくことをおすすめします。どちらが先に亡くなるかは分からないうえ、一方だけの遺言では、残された側が亡くなったときの手当てができません。同時期に2通そろえておくほうが安全です。
相続人が誰もいない場合はどうなりますか?
配偶者も親も兄弟姉妹も甥姪もいない場合、相続財産は最終的に国庫に帰属します。特別縁故者への分与が認められる場合もありますが、家庭裁判所への申立てが必要です。渡したい相手がいるなら、遺言で指定しておいてください。
おいやめいに財産を残したい場合はどうすればよいですか?
遺言で指定できます。甥姪が代襲相続人になっていない段階でも、遺贈という形で財産を渡せます。日ごろ世話になっている相手がいるなら、法定相続分にかかわらず遺言で意思を示しておきましょう。
相続のご相談は国松司法書士法人へ
子がいない夫婦の相続は、誰が相続人になるかを確かめるところから始まります。範囲さえ分かれば、遺言で何をどこまで動かせるのかも見えてきます。
国松司法書士法人は、相続と遺言のご相談を27年にわたってお受けしてきました。司法書士・行政書士・土地家屋調査士のトリプルライセンス体制のため、相続人の範囲を確定する戸籍の収集から、遺言書の文案作成、公証役場との調整、相続が起きた後の登記までを窓口を分けずに進められます。
国分寺市や国立市、府中市、小平市、小金井市といった多摩エリアはもちろん、兄弟姉妹や甥姪が遠方にお住まいの場合にも全国対応で取り組んでいます。まだ遺言を書くと決めていない、誰が相続人になるのかだけ知りたいという段階でも構いません。
初回のご相談は無料です。ご夫婦の家族関係が分かる範囲の情報と、お持ちの不動産の資料があれば、相続人の範囲と取りうる備えをお伝えします。
参考文献
1. 国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4132.htm
2. 国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4157.htm
3. 法務省「相続に関するルールが大きく変わります」 https://www.moj.go.jp/content/001285382.pdf
4. 日本公証人連合会「令和7年の遺言公正証書作成件数について」 https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/yuigon2025.html
5. 法務省「遺言書保管制度の利用状況」 https://www.moj.go.jp/MINJI/common_igonsyo/pdf/number.pdf
【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
プロフィールはこちらに掲載されています。事務所概要 – 国松司法書士法人【国分寺駅北口4分】
この記事の監修者
国松司法書士法人(クニマツシホウショシホウジン)
行政書士国松偉公子事務所
オールフォーワン土地家屋調査士事務所
代表者
國松 偉公子(簡易裁判所代理権あり)
兵庫県神戸市生まれ。神戸高校、大阪大学卒業後上京。民間企業勤務を経て司法書士資格を取得。平成12年に東京都国分寺市内で司法書士国松偉公子事務所を開業。国分寺市を中心とした東京多摩地域で、開業当初から相続に力を入れ、遺言・成年後見・家族信託という相続周りの業務含め26年間で2万件を超える相談、手続実績を重ねた。その間、ワンストップサービス実現を目指し、行政書士資格、土地家屋調査士資格を取得し、事務所を併設、合わせて司法書士事務所を法人化。ハウスメーカー、金融機関、会計事務所、不動産会社等との強固な信頼関係を築きながら、エンドユーザーである個人顧客の遺言作成支援や家族信託の組成等の生前対策に力を入れている。共著に「相続手続きと生前対策ハンドブック」「相続の基本と最新対策がわかる本」(いずれも株式会社アックスコンサルティング 出版局)「地主のための相続対策」(幻冬舎)がある。
資格
司法書士(東京司法書士会所属)、土地家屋調査士(東京土地家屋調査士会所属)
行政書士(東京都行政書士会所属)、民事信託士(一般社団法人民事信託推進センター)
成年後見人名簿・成年後見監督人名簿登載(家庭裁判所)
相続アドバイザー(NPO法人相続アドバイザー協議会)
財産管理マスター(一般社団法人日本財産管理協会)
一般社団法人家族信託普及協会会員
国分寺市政治倫理審査会元委員
国分寺市財産価格審議会委員
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