【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
独身の方からいただく質問で最も多いのが、自分が亡くなったら財産はどこへ行くのかというものです。国に取られてしまうのではないかと心配されている方も少なくありません。
当事務所が最初にお伝えしているのは、独身であることと相続人がいないことは別だという点です。子がいなくても親が健在なら親が相続人になりますし、親が亡くなっていれば兄弟姉妹、兄弟姉妹も亡くなっていればその子である甥や姪へと順に下りていきます。実務で多いのは、何十年も会っていない親族が相続人になり、その方々が戸籍集めと遺産分割に追われるという形でした。
本当に相続人が1人もいない場合は、家庭裁判所が相続財産清算人を選び、債務を清算したうえで残った財産を国庫に納めます。これは制度としてそう決まっている結果であって、失敗ではありません。ただし手続きには時間と費用がかかりますし、お世話になった方へ渡したい財産があっても、何もしなければ届かないとお考えください。
ここでは相続人の範囲を確かめるところから始めて、相続人がいない場合の手続きと期間、申立てを止めている費用の問題、そして生前にできる備えまで順にお伝えします。
独身でも相続人がいる場合のほうが多い

まず確かめていただきたいのは、ご自身に相続人がいるかどうかです。独身であっても、相続人がまったくいないご家庭のほうが少数になります。
国税庁の案内によれば、第1順位は亡くなった方の子で、既に亡くなっている場合はその子の直系卑属が相続人になります。第2順位は父母や祖父母などの直系尊属、第3順位は兄弟姉妹という順序です。配偶者がいない場合は、この順位に当てはまる方だけが相続人になります。
子がいない独身の方では、親が健在なら親、親が亡くなっていれば兄弟姉妹が相続人になるという流れでした。兄弟姉妹が先に亡くなっていても、その子である甥や姪が代わって相続人になります。ただし兄弟姉妹の代襲は甥や姪までで止まるため、甥や姪も亡くなっていればその子は相続人になりません。
実務で負担が大きいのは、この甥や姪が相続人になる場面でしょう。一度も会ったことのない親族が、被相続人とその両親の出生から死亡までの戸籍を集め、相続人全員で遺産分割協議をすることになります。ご自身がどちらの型に当てはまるのかを確かめてから、次の対策を考えてください。
相続人がいないと判断されるのは3つの場合

相続人がいないと扱われるのは、はじめから誰もいない場合、全員が相続放棄をした場合、そして相続権を失った場合の3つです。順番に当てはめてみてください。
1つ目は、子も親も兄弟姉妹も甥姪も1人もいないという状態です。ご兄弟のいない一人っ子の方が、ご両親を見送った後に独身のまま亡くなられたというケースが典型になります。
2つ目は、相続人はいるものの全員が相続放棄をした場合でしょう。裁判所の案内も、相続人全員が相続放棄をして結果として相続する者がいなくなった場合を含めて、家庭裁判所が相続財産の清算人を選任すると説明しています。負債のほうが多いときに起こりやすい形です。
3つ目は、相続欠格や廃除によって相続権を失った場合です。こちらは件数としては多くありません。なお相続人がいるけれど行方が分からないだけという状況は、ここには当てはまりません。その場合は不在者財産管理人という別の制度を使うことになります。
相続人がいないまま亡くなると最後は国庫に入る

相続人が1人もいないまま亡くなると、財産は自動的に国のものになるわけではありません。家庭裁判所が相続財産清算人を選び、清算を終えて残った分が国庫に入るという順序になります。
手続きの入口は、利害関係人または検察官による申立てです。裁判所の案内は、利害関係人として被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者などを挙げています。亡くなった方の親族であっても、相続人でなければ当然に申し立てられるわけではありません。
清算人が選ばれると、家庭裁判所が清算人の選任と相続人を捜す公告を行います。民法第952条第2項は、この公告の期間を6か月を下ることができないと定めました。清算人のほうは、民法第957条第1項により2か月以上の期間を定めて債権者と受遺者に請求の申出を促す公告を行い、この期間は家庭裁判所が定めた期間内に満了しなければなりません。2つの公告が並行して進む形になります。
公告の期間が満了して相続人不存在が確定すると、債権者への弁済と特別縁故者への分与を経て、民法第959条により残った財産が国庫に帰属します。相続した土地を手放すための相続土地国庫帰属制度とは別の制度なので、混同しないようご注意ください。なお以前はこの役割を相続財産管理人と呼んでいて、令和5年4月1日以降に清算人が選任された事件から新しい制度が適用されています。古い名称や期間のまま書かれた解説も残っているため、調べるときは改正後の情報かどうかを確かめてください。
申立てを止めているのは予納金という壁
この手続きで実際に問題になるのは、申立ての費用です。印紙代だけなら数千円で済むものの、別に予納金が必要になります。
裁判所の案内によれば、申立てに必要な費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手、そして官報公告料5,582円です。郵便切手の額は申立先の裁判所によって違います。ここまでであれば大きな負担にはなりません。
問題はその先でした。相続財産の内容によっては、清算人への報酬を含む費用の不足に備えて予納金の納付を求められます。大阪家庭裁判所の手引きでは、管理費用と清算人報酬としておおむね100万円程度を申立人に予納してもらうと説明されていました。金額は裁判所と事案によって変わるため、申立てを検討する段階で管轄の家庭裁判所にご確認ください。
同じ手引きには、相続財産が形成されない場合には全額または一部が返還されないことがあるとも書かれています。つまり申立人が自腹を切る可能性が残るということです。この負担があるために誰も申し立てず、財産が長く放置されるという事態が起こります。生前に手を打っておけば、この入口でつまずくこと自体を避けられます。
特別縁故者への分与には3か月の期限がある

内縁の配偶者や、長年にわたって療養看護をしてきた方は、特別縁故者として財産の分与を受けられる場合があります。ただし自動では受け取れないため、ご自身で家庭裁判所に申し立てなければなりません。
民法第958条の2第1項は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、家庭裁判所が相当と認めるときに、清算後残存すべき相続財産の全部または一部を与えることができると定めています。認められるかどうかも、どれだけ分与されるかも、家庭裁判所の判断によります。
見落とされやすいのが期限でしょう。同条第2項は、この請求を第952条第2項の期間の満了後3か月以内にしなければならないと定めました。相続人を捜す公告が終わってから3か月という短い期間になります。
清算人のほうから声をかけてもらえるとは限らないため、この期限はご自身で管理することになります。制度としては用意されていても、確実に渡せる方法ではありません。渡したい相手が決まっているなら、遺言書を残しておくほうがはるかに確実です。
内縁の配偶者には相続権がない
どれだけ長く一緒に暮らしていても、婚姻届を出していなければ相続人にはなりません。事実婚のパートナーも、同居しているご友人も、法律上の相続権は持てないとお考えください。
同じことは、お世話になった施設の方や、長く支えてくれた知人にも当てはまります。感謝の気持ちがあっても、法律は戸籍上の関係だけで相続人を決める仕組みでした。前の項目で触れた特別縁故者の申立てという道は残るものの、家庭裁判所の判断次第で期限も短くなっています。
確実に渡す方法は遺言書です。遺言で遺贈と書いておけば、相続人でない方にも財産を渡せます。独身の方が遺言を書く意味は、相続人同士の争いを防ぐためというより、法律の順番では届かない相手に届かせるためだといえます。
あわせて、遺言書に不備があると使えなくなる点にもご注意ください。書き方の要点については、こちらの記事も参考になります。
独身の備えは3つに分かれる

独身の方の備えは、財産の行き先、死後の事務、判断能力の低下という3つに分かれます。どれか1つでは足りないという点が、ご家族のいる方との違いになります。
1つ目の財産の行き先を決めるのが遺言書です。公正証書遺言にしておけば、形式の不備で無効になる心配がほとんどなくなりますし、原本が公証役場に残るため紛失や改ざんも防げます。あわせて遺言執行者を指定しておくと、預金の解約や不動産の名義変更を執行者が単独で進められるようになりました。
2つ目の死後の事務は、遺言書では動かせません。葬儀や納骨、入院費や施設利用料の精算、行政への届出、賃貸住宅の明け渡し、携帯電話やサブスクリプションの解約といった実務を誰が行うのかという問題です。ここは死後事務委任契約で、生前に受任者を決めておきます。
3つ目は判断能力が落ちたときの備えで、任意後見契約が受け持ちます。元気なうちに自分で後見人を選んでおける仕組みのため、独身の方には特に意味があるでしょう。なお家族信託という選択肢もありますが、財産を預かる受託者を任せられるご家族がいることが前提になるため、独身の方では選べない場合があります。
遺言執行者を誰に頼むかで迷われている方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
よくある質問
独身で子どもがいないと財産は必ず国に行くのですか?
行きません。親や兄弟姉妹、甥や姪がいれば、その方々が相続人になります。国庫に入るのは、相続人が1人もおらず、債権者への弁済と特別縁故者への分与を終えてもなお財産が残った場合に限られます。
兄弟姉妹とは何十年も会っていませんが相続人になりますか?
なります。相続人の順位は法律で決まっていて、交流の有無や関係の良し悪しは影響しません。渡したい相手が別にいるのであれば、遺言書で指定しておいてください。
相続人がいないとき誰が手続きを始めるのですか?
利害関係人または検察官が家庭裁判所に申し立てます。債権者や特定遺贈を受けた方、特別縁故者などが利害関係人に当たるとお考えください。誰も申し立てなければ手続きは始まらないため、財産がそのまま放置されることもあります。
内縁のパートナーに財産を残せますか?
遺言書があれば残せます。遺贈という形で、相続人でない方にも財産を渡せるからです。遺言がない場合は特別縁故者として申し立てる道が残るものの、認められるかどうかは家庭裁判所の判断になります。
相続財産清算人の手続きにはどのくらいかかりますか?
相続人を捜す公告の期間が6か月を下れないと定められているため、権利関係が固まるまでに少なくとも半年はかかります。そこから特別縁故者への分与や国庫への引継ぎが続くため、全体では1年を超えることも珍しくありません。
遺言書を書けば死後の手続きもすべて任せられますか?
任せられません。遺言書が決められるのは財産の行き先までで、葬儀や行政への届出、各種契約の解約といった死後の事務は対象外です。そこまで託したい場合は、死後事務委任契約を別に結んでおく必要があります。
独身の相続のご相談は国松司法書士法人へ
独身の方の備えは、まずご自身に相続人がいるかどうかを確かめるところから始まります。範囲さえ分かれば、遺言で何をどこまで動かせるのかも見えてきます。
当事務所は、相続と遺言のご相談と手続きに27年目を迎え、累計20,000件を超えるご依頼をお受けしてきました。司法書士・行政書士・土地家屋調査士のトリプルライセンス体制のため、相続人の範囲を確定する戸籍の収集から、遺言書の文案作成、公証役場との調整、不動産の登記までを窓口を分けずに進められます。
国分寺市や国立市、府中市、小平市、小金井市といった多摩エリアはもちろん、ご親族が遠方にお住まいの場合にも全国対応で取り組んでいます。遺言を書くと決めていない、誰が相続人になるのかだけ知りたいという段階でも構いません。
初回のご相談は無料です。ご家族の状況が分かる範囲の情報と、お持ちの不動産や預貯金の資料があれば、相続人の範囲と取りうる備えをお伝えします。
参考文献
1. 国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」
2. 裁判所「相続財産清算人の選任」
3. e-Gov法令検索「民法」
4. 大阪家庭裁判所「相続財産清算人選任申立ての手引き」
5. 熊本家庭裁判所「相続財産の清算人の職務について」
【この記事の監修:司法書士國松偉公子】プロフィールはこちらに掲載されています。事務所概要 – 国松司法書士法人【国分寺駅北口4分】
この記事の監修者
国松司法書士法人(クニマツシホウショシホウジン)
行政書士国松偉公子事務所
オールフォーワン土地家屋調査士事務所
代表者
國松 偉公子(簡易裁判所代理権あり)
兵庫県神戸市生まれ。神戸高校、大阪大学卒業後上京。民間企業勤務を経て司法書士資格を取得。平成12年に東京都国分寺市内で司法書士国松偉公子事務所を開業。国分寺市を中心とした東京多摩地域で、開業当初から相続に力を入れ、遺言・成年後見・家族信託という相続周りの業務含め26年間で2万件を超える相談、手続実績を重ねた。その間、ワンストップサービス実現を目指し、行政書士資格、土地家屋調査士資格を取得し、事務所を併設、合わせて司法書士事務所を法人化。ハウスメーカー、金融機関、会計事務所、不動産会社等との強固な信頼関係を築きながら、エンドユーザーである個人顧客の遺言作成支援や家族信託の組成等の生前対策に力を入れている。共著に「相続手続きと生前対策ハンドブック」「相続の基本と最新対策がわかる本」(いずれも株式会社アックスコンサルティング 出版局)「地主のための相続対策」(幻冬舎)がある。
資格
司法書士(東京司法書士会所属)、土地家屋調査士(東京土地家屋調査士会所属)
行政書士(東京都行政書士会所属)、民事信託士(一般社団法人民事信託推進センター)
成年後見人名簿・成年後見監督人名簿登載(家庭裁判所)
相続アドバイザー(NPO法人相続アドバイザー協議会)
財産管理マスター(一般社団法人日本財産管理協会)
一般社団法人家族信託普及協会会員
国分寺市政治倫理審査会元委員
国分寺市財産価格審議会委員
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