
相続土地国庫帰属制度は、2023年4月27日に施行された比較的新しい仕組みで、相続や遺贈で取得した不要な土地を国に引き渡せる画期的な制度です。
しかし、法務省が公開している統計(令和8年1月31日時点)を見ると、累計申請件数5,032件に対して帰属が認められたのは2,432件でした。却下78件、不承認80件に加え、取下げも相当数にのぼっており、申請すれば必ず通るという性質の制度ではありません。
どのような土地が「使えない」と判断されるのかや、制度を利用できない場合にどんな選択肢が残されているのかなど、本記事では、却下・不承認の具体的な要件から実務上の判断ポイント、そして代替手段までを詳しく解説します。
そもそも相続土地国庫帰属制度とは何か

相続土地国庫帰属制度を一言で表すと、「相続で受け取った不要な土地だけを国に引き渡せる仕組み」です。
従来、相続した財産のうち土地だけを手放す方法は事実上存在しませんでした。
相続放棄をすれば土地を手放せますが、預貯金や有価証券など他のすべての財産も放棄しなければなりません。
かといって不要な土地を自治体に寄付しようとしても、ほとんどの自治体は受け取りを拒否します。
こうした「土地の所有権を放棄できない」という法律上の壁が、所有者不明土地の増加という深刻な社会問題を引き起こしてきました。
国土交通省の調査では、所有者不明土地の面積は九州全体の広さを上回るとされています。
制度の創設背景にはこの問題があり、管理が困難な相続土地を国が一定の条件のもとで引き取ることで、将来の所有者不明土地の発生を防ごうというのが立法趣旨です。
ただし、国が無制限に土地を引き取るわけではなく、申請にあたっては複数の厳格な要件が設けられています。
制度が使えない土地の要件を正確に理解する

相続土地国庫帰属制度で土地が引き取ってもらえないケースは、大きく「却下要件」と「不承認要件」の2段階に分かれます。
却下は申請の段階で門前払いとなるもの、不承認は書類審査や現地調査を経たうえで認められないものです。
申請段階で即座に却下される5つの要件
まず、以下のいずれかに該当する土地は、申請を出しても法務局が受け付けません。
1:建物や工作物が存在する土地
最もわかりやすい却下要件の一つです。空き家が残ったままの土地や、倉庫・物置が建っている土地は対象外となります。制度を利用したい場合は、申請者の自費で建物を解体し、更地にしなければなりません。
解体費用は木造住宅でも100万円から200万円程度かかるケースが多く、制度利用の大きなハードルとなっています。
2:担保権や利用権が設定されている土地
抵当権が残っている土地、地上権や賃借権が設定されている土地は、まずそれらの権利を抹消・終了させる必要があります。
3:通路や墓地など、他人に使用されている土地
法務省の統計では、却下理由の中で「現に通路の用に供されている土地」が20件と最多を占めており、私道や里道として近隣住民に利用されている土地で問題になりやすい要件です。
4:土壌汚染がある土地
土壌汚染対策法に定める特定有害物質で汚染されている場合に該当します。工場跡地や廃棄物処理場だった土地は注意が必要です。
5:境界が明らかでない土地
統計上21件がこの理由で退けられています。お隣との境界線が確定しておらず紛争の可能性がある土地は、事前に境界確認を済ませておかなければなりません。
審査を経て不承認となる5つの要件
却下要件をクリアして申請が受理されても、法務局の書類審査と現地調査の結果、不承認と判断される場合があります。
1:勾配30度以上かつ高さ5メートル以上の崖がある土地
通常の管理に過大な費用や労力がかかるものが該当します。統計では7件がこの理由で不承認となりました。
2:地上に管理を阻害する有体物がある土地
不承認理由の中で最も件数が多く38件にのぼります。放置された車両、伐採されていない樹木、廃棄された資材などが該当し、特に山林ではこの要件に引っかかるケースが目立ちます。
3:地下に除去が必要な有体物がある土地
古い建物の基礎やコンクリートガラ、埋設された配管などが問題となります。
4:隣接地の所有者との争訟が必要な土地
民法上の通行権が妨げられている場合や、所有権に基づく使用収益が妨害されている場合に該当します。
5:その他、管理に過大な費用がかかる土地
災害リスクの高い土地や、国による追加整備が必要な森林などが含まれます。森林関連では35件が不承認となっており、山林の国庫帰属が難しい実態を裏づけています。
山林と農地はなぜ承認されにくいのか

法務省の統計を地目別に見ると、制度が「使えない」現実が鮮明に浮かび上がります。
山林は申請780件に対して帰属が認められたのは一部にとどまり、宅地と比較して承認率が大幅に低い状況にあります。山林の承認が難しい最大の理由は、境界確認のハードルの高さです。
山林は面積が広く、隣接する土地の所有者も遠方に住んでいるケースが多いため、立会いによる境界確認に膨大な時間と費用がかかります。
加えて、山林には放置された樹木や作業小屋といった有体物が残存していることが多いです。
前述のとおり「地上の有体物」は不承認理由の最多を占めており、伐採や撤去の費用を考えると、制度利用のメリットが薄れてしまうケースもあります。
農地については、田・畑の申請件数が1,955件と全地目中最多である一方、農地法による規制が重なる点に留意が必要です。
農地の売買や転用には農業委員会の許可が必要であり、国庫帰属後の管理方針との整合性も審査で問われることになるでしょう。
ただし、農地は山林と比較すれば境界が明確なことが多く、条件さえ整えば承認されるケースも相当数あります。
制度を利用できないと判明したときの4つの代替策

相続土地国庫帰属制度が使えないと判明した場合でも、土地を手放す方法はゼロではありません。
それぞれの方法にメリットと限界があるため、自身の状況に合った選択肢を見極めることが重要です。
相続放棄を検討する
相続の開始を知った日から3か月以内であれば、家庭裁判所に相続放棄を申述できます。
ただし、相続放棄は土地だけでなく預貯金や有価証券を含むすべての相続財産を放棄する手続きです。
「不要な土地だけ放棄して、預金は受け取りたい」という使い方はできません。
相続放棄を選択するかどうかは、プラスの財産とマイナスの財産(負債や管理コスト)を総合的に比較して判断する必要があります。
国松司法書士法人でも、相続放棄の申述書作成から家庭裁判所への書類提出、照会書への回答支援まで一貫してサポートしており、3か月の期限が迫っている方には早めのご相談をおすすめしています。
隣接地の所有者や近隣の利用者への売却・譲渡
不動産市場では値がつかない土地でも、隣接地の所有者にとっては価値がある場合があります。
駐車場として使いたい、畑を広げたいなど、隣の方なら活用の見込みがあるかもしれません。
声をかけてみるだけでも状況が動くことがあり、実際に法務省の統計でも「隣接地所有者から土地の引き受け申し出があった」ことを理由に申請を取り下げた事例が報告されています。
自治体への寄付や空き家バンクの活用
一般的に自治体は土地の寄付を受け付けないケースが多いものの、公共利用の見込みがある土地や、地域活性化に寄与しうる土地については例外的に受け入れる場合があります。
また、空き家バンクに登録することで、移住希望者やリモートワーカーなど新たな利用者とマッチングできる可能性もあるでしょう。
不動産買取業者への売却(有償引き取り含む)
訳あり物件や負動産を専門に扱う不動産買取業者に相談する方法もあります。
ただし、業者によって買取価格や条件は大きく異なるため、複数社に見積もりを依頼して比較検討することが大切です。
制度利用の前に知っておくべき費用の現実

相続土地国庫帰属制度は「タダで土地を国に返せる」仕組みではありません。
利用にあたっては2種類の費用が発生します。まず、申請時に土地1筆あたり14,000円の審査手数料を収入印紙で納付します。この手数料は、仮に申請が却下・不承認となっても、途中で取り下げても返還されません。
審査期間が約8か月と長期にわたる点を踏まえると、事前に法務局の窓口で相談し、承認の見込みを確認してから申請に臨むべきでしょう。
次に、帰属が承認された場合に「負担金」を納付する必要があります。
負担金は国が今後10年間その土地を管理するために必要な費用の概算額で、原則として20万円です。ただし、市街地の宅地や農用地、森林などは面積に応じた算定式で計算されるため、20万円を大きく上回ることもあります。
さらに、制度の要件を満たすための事前準備費用も見落とせません。建物の解体費用、境界確定のための測量費用、地上の有体物の撤去費用、そして専門家への相談・書類作成の報酬など、トータルで数十万円から100万円超の出費になるケースもあり得ます。
こうした費用と、土地を持ち続けた場合の固定資産税や管理コストを天秤にかけたうえで、制度の利用可否を判断する視点が欠かせません。
申請手続きの流れと専門家に依頼すべき場面

制度の利用を検討する際は、まず管轄の法務局(本局)に事前相談を申し込むことから始まります。
相談は無料で、チェックシートや土地の写真を持参すれば、自分の土地が要件を満たしそうかどうかの感触をつかめます。
事前相談で見込みがありそうだと判断できたら、承認申請書と添付書類を作成して法務局に提出します。
申請書の作成自体は土地所有者本人が行う必要がありますが、書類の作成を弁護士、司法書士、行政書士に依頼することは認められています。
法務局による書類審査と現地調査を経て、法務大臣が承認・不承認を決定。承認された場合は、通知から30日以内に負担金を日本銀行に納付すると、土地の所有権が国に移転します。
国松司法書士法人は司法書士・行政書士に加えて土地家屋調査士の資格も併せ持つトリプルライセンス事務所であり、相続登記から境界確認、そして国庫帰属制度の申請書類作成まで、ワンストップで対応できる点が強みです。
2028年の制度見直しに向けた動きにも注目

法律の附則には、施行から5年後にあたる2028年をめどに制度の見直しを検討する旨が明記されています。
現在の統計データからは、申請件数の伸び悩みや山林の承認率の低さが課題として見えており、要件の緩和や負担金の減額といった改正が議論される可能性があります。
とはいえ、見直しを待っている間も固定資産税や管理費用は発生し続けます。
「もう少し待てば条件が緩くなるかもしれない」と考えて先送りにするよりも、現行制度で対応可能かどうかを早めに確認し、使えない場合は代替策を講じるほうが、結果的にコストを抑えられるケースが多いでしょう。
負動産問題は国松司法書士法人にご相談ください
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初回相談は無料です。国分寺市・国立市・府中市・小平市・小金井市など多摩エリアの方はもちろん、全国からのご相談も大歓迎です。
【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
プロフィールはこちらに掲載されています。事務所概要 – 国松司法書士法人【国分寺駅南口2分】
この記事の監修者
国松司法書士法人(クニマツシホウショシホウジン)
行政書士国松偉公子事務所
オールフォーワン土地家屋調査士事務所
代表者
國松 偉公子(簡易裁判所代理権あり)
兵庫県神戸市生まれ。神戸高校、大阪大学卒業後上京。民間企業勤務を経て司法書士資格を取得。平成12年に東京都国分寺市内で司法書士国松偉公子事務所を開業。国分寺市を中心とした東京多摩地域で、開業当初から相続に力を入れ、遺言・成年後見・家族信託という相続周りの業務含め26年間で2万件を超える相談、手続実績を重ねた。その間、ワンストップサービス実現を目指し、行政書士資格、土地家屋調査士資格を取得し、事務所を併設、合わせて司法書士事務所を法人化。ハウスメーカー、金融機関、会計事務所、不動産会社等との強固な信頼関係を築きながら、エンドユーザーである個人顧客の遺言作成支援や家族信託の組成等の生前対策に力を入れている。共著に「相続手続きと生前対策ハンドブック」「相続の基本と最新対策がわかる本」(いずれも株式会社アックスコンサルティング 出版局)「地主のための相続対策」(幻冬舎)がある。
資格
司法書士(東京司法書士会所属)、土地家屋調査士(東京土地家屋調査士会所属)
行政書士(東京都行政書士会所属)、民事信託士(一般社団法人民事信託推進センター)
成年後見人名簿・成年後見監督人名簿登載(家庭裁判所)
相続アドバイザー(NPO法人相続アドバイザー協議会)
財産管理マスター(一般社団法人日本財産管理協会)
一般社団法人家族信託普及協会会員
国分寺市政治倫理審査会元委員
国分寺市財産価格審議会委員
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