【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
相続対策は、財産の棚卸しと相続人の確定から始めます。遺言にするか生前贈与にするかという手段の比較は、その後で決めることです。
順番を逆にすると、あとで作り直しになります。誰が相続人になるのか分からないまま遺言を書いても、実際には想定外の人が相続人に含まれていて、書き直しが必要になる場面は珍しくありません。
もう1つ、多くの方が誤解しているのが対策の締切です。相続対策は亡くなるまで続けられるものではなく、判断能力を失った時点で選択肢がほぼ尽きてしまいます。
ここでは相続対策の目的を3つに整理したうえで、着手の順番、手段ごとの限界、そして相談先の選び方までを順に見ていきましょう。個別の手段の詳細は当事務所の別記事でも扱っているため、この記事では入口の判断に絞ります。
相続対策は3つの目的に分かれる

分け方を決めるための代表的な手段が遺言です。誰に何を渡すかを本人が決めておけば、相続人全員で遺産分割協議を行う必要がなくなり、話し合いがまとまらないという事態を避けられます。
手続きの負担を減らすという目的は見落とされがちでしょう。不動産の名義がどうなっているか、預貯金の口座がいくつあるか、保険の証券がどこにあるかを本人しか知らない状態では、残された家族は財産探しから始めなければなりません。
税に備えるというのは、相続税の納税資金を用意したり、課税対象になる財産を減らしたりする対策です。ただし後で述べるとおり、この目的が最優先になる家庭は実際には多くありません。
相続対策という言葉は、この3つをひとまとめにして使われがちです。ただし対策としての性質は大きく違い、分け方を決める作業は本人にしかできない一方で、手続きの負担を減らす準備は家族と一緒に進められます。ひとくくりに考えると、何を先に決めるべきかが見えなくなってしまいます。
3つのうち、どれが自分に必要なのかを見極めることが最初の分岐点です。すべてを同時に進める必要はありません。
節税から入ると優先順位を誤る

相続対策を節税から考え始めると、多くの場合で優先順位を誤ります。そもそも相続税がかかる家庭は全体の1割ほどしかないからです。
財務省の相続税に関する資料によれば、令和6年分の死亡者数1,605,378人に対して相続税の課税件数は166,730件で、課税件数割合は10.4%でした。裏を返せば、9割近くの家庭では相続税の申告そのものが不要ということになります。
相続税の基礎控除額は、国税庁が示す計算方法のとおり3,000万円に法定相続人の数へ600万円を掛けた額を加えて求めます。相続人が3人なら4,800万円までは課税されない計算です。
一方で、遺産の分け方と名義変更の手続きは、財産の多い少ないにかかわらず全員に発生します。自宅と預貯金だけという構成でも、相続人が複数いれば遺産分割協議は必要ですし、不動産があれば相続登記も避けて通れません。
相続登記は2024年4月から申請が義務になり、取得を知った日から3年以内という期限が設けられました。法務省の案内のとおり2024年4月1日より前に相続を知っていた不動産についても2027年3月31日までという期限があるため、先代の名義が残っている家庭では相続対策より先にそちらの処理が必要になります。
節税を考えるべきかどうかは、財産の棚卸しをすれば見当がつきます。基礎控除額を大きく超えていないのであれば、対策の重心は分け方と手続きに置いたほうが実際の役に立つでしょう。
相続対策の締切は死亡ではなく判断能力の喪失

相続対策で本当に意識すべき締切は、亡くなる日ではなく判断能力を失う日です。遺言も生前贈与も家族信託も任意後見契約も、本人に判断能力があることが前提になっています。
令和7年版高齢社会白書によれば、令和4年における認知症の高齢者数は443.2万人で有病率は12.3%、令和22年には584.2万人、有病率14.9%になると推計されています。誰にとっても他人事の数字ではありません。
同じ白書では、認知症の前段階にあたる軽度認知障害の高齢者数も令和4年で558.5万人、令和22年には612.8万人と推計されています。軽度認知障害の段階では判断能力が保たれていることも多く、実務上はここが対策を間に合わせられる最後の時期になりがちです。
判断能力を失った後に何が起きるかというと、財産が事実上動かせなくなります。預貯金の引き出しも不動産の売却も、本人の意思確認ができなければ進みません。
そこで残る選択肢が法定後見です。家庭裁判所が後見人を選任して財産管理を行う制度ですが、誰が後見人になるかは家庭裁判所が決めるため、本人や家族が指名することはできません。
判断能力があるうちに任意後見契約を結んでおけば、後見人になる人を自分で選べます。ただし任意後見は発効時に別途監督人の報酬がかかり、その負担は契約が終わるまで続く点も知っておいてください。
つまり相続対策とは、選べる状態のうちに選んでおく行為です。時間が経つほど手段は減っていき、最後には家庭裁判所に委ねる道しか残らなくなります。
相続対策は何から始めるか

相続対策は、財産の棚卸しと相続人の確定という2つの調査から始めます。手段の比較を先にしても、判断の材料がそろっていなければ決められません。
財産の棚卸しでは、不動産、預貯金、有価証券、保険、負債を一覧にします。不動産は権利証や固定資産税の納税通知書で確認し、登記記録上の名義が本人になっているかどうかも併せて見ておきましょう。先代の名義のままになっている土地が見つかることは実際によくあります。
見落とされやすいのが負債とインターネット上の資産です。住宅ローンの残債や連帯保証はもちろん、ネット銀行やネット証券の口座は通帳が届かないため、本人以外は存在に気づけません。一覧に加えておくだけで、残された家族の負担はかなり変わります。
相続人の確定は、戸籍をたどって法定相続人が誰になるかを確認する作業です。前妻との間に子がいる、認知した子がいる、兄弟姉妹が相続人になるといった事情は、戸籍を見て初めて分かる場合があります。
この2つが終わって初めて、分け方の設計に進めます。誰に何を渡したいのか、渡したい相手が相続人以外なのか、特定の財産を特定の人に集中させたいのかによって、必要な手段は変わってくるでしょう。
手段の選択はその次です。分け方を決めたいなら遺言、判断能力の低下に備えたいなら任意後見や家族信託、生前に財産を移しておきたいなら生前贈与という具合に、目的から逆算して選びます。
最後に見直しの習慣を持ってください。財産の内容も家族の状況も変わるため、一度作った遺言が10年後の実情に合っているとは限りません。
手段ごとにできることとできないこと

相続対策の手段は、それぞれ守備範囲が違います。1つの手段ですべての目的を満たすことはできません。
遺言は、誰に何を渡すかを決めておく手段です。相続開始後の分け方を指定できる一方で、生きている間の財産管理には効きません。認知症になったときに預金が凍結される問題は、遺言では解決できないという理解が必要でしょう。
作り方には自筆で書く方式と公正証書にする方式があります。公正証書遺言は公証人が関与するため方式の不備で無効になりにくく、原本が公証役場に保管される点も安心材料になりますが、その分の手数料と証人の手配が必要です。手軽さを取るか確実性を取るかという選択になります。
生前贈与は、生きているうちに財産を移す手段です。渡す相手も時期も自分で決められますが、贈与税の負担が生じる場合があり、相続開始前の一定期間内の贈与は相続税の計算に加算されます。遺留分をめぐる問題も、贈与したから消えるわけではありません。
家族信託は、財産の管理を家族に託しておく仕組みです。判断能力が低下した後も信託した財産を管理できる点が強みですが、契約書の設計に専門的な判断が要り、信託していない財産には効果が及びません。
任意後見は、判断能力が低下した後の財産管理と身上保護を任せる契約です。後見人を自分で選べる代わりに、発効後は家庭裁判所が選任する監督人の報酬が継続して発生します。
生命保険は、受取人を指定して現金を渡す手段です。遺産分割の対象にならないため納税資金や代償金の原資として使えますが、契約内容によっては課税関係が変わるため、税理士への確認が要ります。
自筆で遺言を書く場合の要件については、こちらの記事も参考にしてください。
相続対策の相談先はどう選ぶか
相続対策の相談先は、不動産の名義や遺言の作成が中心なら司法書士、相続税の試算や節税なら税理士、相続人の間ですでに対立があるなら弁護士という切り分けになります。銀行の遺言信託は財産の管理と執行をまとめて任せられる代わりに、費用の水準は高めです。
最初の窓口として司法書士が向いているのは、相続対策の入口が財産と相続人の調査だからでしょう。不動産の登記記録を読み、戸籍から相続人を確定する作業は、そのまま司法書士の日常業務と重なります。
相続税の試算が必要かどうかも、棚卸しの結果を見れば判断できます。基礎控除額を超えそうであれば税理士に、超えないのであれば分け方と手続きの設計に資源を振り向けたほうが合理的です。
費用をかけずに全体像をつかみたい場合は、自治体の無料相談会や法テラスという選択肢もあります。制度の一般的な説明を聞く用途であれば十分に足りるでしょう。ただし相談時間が30分程度に限られることが多く、戸籍や登記記録を精査したうえでの提案までは期待できません。
一般論を聞く段階では公的な窓口を使い、実際に書類を作る段階では継続して依頼できる事務所に相談するという二段構えが、結果として遠回りになりません。
相談の際は、固定資産税の納税通知書と、把握している範囲の預貯金の一覧をお持ちください。すべてがそろっていなくても構いません。分からない部分こそ、専門家が調べる対象になります。
国松司法書士法人は司法書士と行政書士、土地家屋調査士のトリプルライセンス体制で、相続と遺言の相談と手続きに27年目、累計20,000件を超える案件を扱ってきました。相続対策では登記記録と現況の食い違いが見つかることもありますが、土地の表示に関する登記まで自事務所内で対応できるため、窓口を分けずに進められます。
相談を切り出すタイミングに迷っている方は、こちらの記事も参考にしてください。
相続対策についてよくある質問
相続対策はいつから始めるべきですか?
判断能力があるうちであれば早いほど選択肢が多く残ります。年齢よりも、本人が自分の意思で契約や遺言ができる状態かどうかが基準です。財産の内容が固まってきた時期や、不動産を取得した時期が1つの区切りになります。
相続税がかからない家庭でも相続対策は必要ですか?
必要です。相続税の課税件数割合は10.4%にとどまりますが、遺産の分け方と名義変更の手続きは財産の多さに関係なく発生します。分け方を決めていないほうが、家族の負担は大きくなりがちです。
遺言と家族信託はどちらを選ぶべきですか?
目的が違うため、どちらか一方という選び方にはなりません。亡くなった後の分け方を決めたいなら遺言、生きている間の財産管理に備えたいなら家族信託です。両方を組み合わせる場合もあります。
認知症になった後でも相続対策はできますか?
判断能力が失われた後は、遺言も贈与も信託も任意後見契約も結べません。残るのは家庭裁判所に法定後見の開始を申し立てる道ですが、後見人を家族が指名することはできない点にご注意ください。
相続対策の相談は無料でできますか?
初回の相談を無料としている事務所は多く、当事務所も初回のご相談は無料です。自治体の無料相談会や法テラスも一般的な説明を聞く用途では使えますが、財産や戸籍を精査したうえでの提案までは時間の制約から難しいでしょう。
相続対策の相談には何を持っていけばよいですか?
固定資産税の納税通知書と、把握している範囲の預貯金や保険の一覧があれば十分です。権利証が見つからなくても手続きは進められるため、探すことに時間をかけすぎないでください。
相続対策のご相談は国松司法書士法人へ
相続対策は、何を選ぶかより先に、何が必要かを見極める作業から始まります。財産と相続人がはっきりすれば、必要な手段はおのずと絞られていきます。
国松司法書士法人は、JR国分寺駅北口から徒歩4分の事務所で、相続と遺言のご相談を27年にわたってお受けしてきました。財産の棚卸しと相続人の確定から、遺言の作成、任意後見契約、相続登記まで、続けてご相談いただけます。
国分寺市や国立市、府中市、小平市、小金井市といった多摩エリアはもちろん、離れて暮らすご家族が関わる場合も全国対応で取り組んでいます。何から手を付ければよいか分からないという段階でも構いません。
初回のご相談は無料です。手元にある資料をお持ちいただければ、優先順位と進め方の見通しをお伝えします。
参考文献
1. 財務省「相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/property/e07.htm
2. 内閣府「令和7年版高齢社会白書 第1章第2節 健康・福祉」 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/html/zenbun/s1_2_2.html
3. 国税庁「No.4152 相続税の計算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
4. 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
5. 日本公証人連合会「4 任意後見契約」 https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow04
【この記事の監修:司法書士國松偉公子】プロフィールはこちらに掲載されています。
この記事の監修者
国松司法書士法人(クニマツシホウショシホウジン)
行政書士国松偉公子事務所
オールフォーワン土地家屋調査士事務所
代表者
國松 偉公子(簡易裁判所代理権あり)
兵庫県神戸市生まれ。神戸高校、大阪大学卒業後上京。民間企業勤務を経て司法書士資格を取得。平成12年に東京都国分寺市内で司法書士国松偉公子事務所を開業。国分寺市を中心とした東京多摩地域で、開業当初から相続に力を入れ、遺言・成年後見・家族信託という相続周りの業務含め26年間で2万件を超える相談、手続実績を重ねた。その間、ワンストップサービス実現を目指し、行政書士資格、土地家屋調査士資格を取得し、事務所を併設、合わせて司法書士事務所を法人化。ハウスメーカー、金融機関、会計事務所、不動産会社等との強固な信頼関係を築きながら、エンドユーザーである個人顧客の遺言作成支援や家族信託の組成等の生前対策に力を入れている。共著に「相続手続きと生前対策ハンドブック」「相続の基本と最新対策がわかる本」(いずれも株式会社アックスコンサルティング 出版局)「地主のための相続対策」(幻冬舎)がある。
資格
司法書士(東京司法書士会所属)、土地家屋調査士(東京土地家屋調査士会所属)
行政書士(東京都行政書士会所属)、民事信託士(一般社団法人民事信託推進センター)
成年後見人名簿・成年後見監督人名簿登載(家庭裁判所)
相続アドバイザー(NPO法人相続アドバイザー協議会)
財産管理マスター(一般社団法人日本財産管理協会)
一般社団法人家族信託普及協会会員
国分寺市政治倫理審査会元委員
国分寺市財産価格審議会委員
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