【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
認知症の親の預金が引き出せない、実家を売りたいのに契約ができないといった困りごとをきっかけに、成年後見制度を検討し始める方は少なくありません。ところが調べてみると、「一度始めると一生やめられない」「専門家に月々の報酬を払い続ける」といった声が目に入り、かえって不安になった方も多いのではないでしょうか。
成年後見制度は、判断能力が不十分になった方の財産や生活を守るために2000年に始まった仕組みです。認知症や知的障害などで自分では契約や財産管理が難しくなった人に代わり、家庭裁判所が選んだ後見人が手続きを担います。本人を守る有効な制度ですが、使い方を誤ると家族に予想外の負担がのしかかることも少なくありません。
本記事では、成年後見制度のデメリットを一つずつ丁寧に解きほぐしたうえで、そのデメリットの多くを生んでいた根本原因と、2026年に成立した法改正でその原因がどう変わろうとしているのかまで踏み込みます。単なるデメリットの列挙ではなく、「なぜそうなるのか」「これからどうなるのか」を理解して判断できるようになることを目指します。
成年後見制度のデメリットを正しく理解する

まず押さえておきたいのは、成年後見のデメリットとして語られる項目の多くが、実は共通した一つの性質から派生しているという点です。上位の解説記事では「費用がかかる」「財産を動かせない」「途中でやめられない」などが並列で挙げられますが、これらをバラバラに覚えても本質はつかめません。
その共通の性質とは、成年後見が「本人の財産を保護すること」を最優先に設計された制度だという点にあります。財産を守るために家庭裁判所が関与し、後見人の行動が縛られ、いったん始めた保護は簡単には解けません。デメリットとされるものの大半は、保護を徹底するという制度の目的の裏返しなのです。ここを理解しておくと、個々のデメリットが腑に落ちやすくなります。
以下では、代表的なデメリットを性質ごとに整理しながら見ていきます。
費用と手間に関するデメリット
成年後見を検討する方が最初に気にするのが、お金と手続きの負担です。制度を使い始める入口から、使い続ける過程まで、それぞれに負担が発生します。
申立ての手続きに手間と時間がかかる
成年後見を始めるには、家庭裁判所へ後見開始の申立てを行う必要があります。申立書のほか、本人の戸籍や住民票、財産目録、そして医師による診断書などをそろえなければなりません。判断能力の程度を医学的に示す鑑定が求められることもあり、書類の準備から選任までには一定の期間を要します。
親族の同意書がそろわないと手続きが長引くこともあり、思い立ってすぐに始められるものではないと考えておいたほうがよいでしょう。この入口の煩雑さが、必要になってから慌てる原因にもなっています。
専門家が後見人になると報酬が生涯続く
もっとも負担感が大きいのが、後見人への報酬です。親族ではなく弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれた場合、その報酬は本人の財産から毎月支払われ続けます。金額は管理する財産の規模などをもとに家庭裁判所が決め、月額数万円が本人の存命中ずっと発生し続けるのが実情でしょう。
見過ごされがちなのは、この報酬が「用事が済んでも終わらない」点です。たとえば実家の売却という一つの目的のために制度を使い始めても、売却が終わったあとも後見は続き、日常の財産管理に対する報酬が発生し続けます。後述するとおり、この構造こそが成年後見の最大のデメリットの源泉になっていました。
財産の使い方に関するデメリット
成年後見が始まると、本人の財産の扱いには強い制約がかかります。家族が「本人のため」と考える使い方であっても、認められないことが少なくありません。
後見人の役割は、あくまで本人の財産を維持し保護することにあります。そのため、値動きのある株式や不動産への投資といった資産運用は、たとえ増やす目的であっても原則として認められません。元本割れのリスクがある行為は、保護の観点から避けられるからです。
相続税対策として広く行われる生前贈与も、原則としてできません。贈与は本人の財産を減らす行為にあたり、本人の利益にならないと判断されてしまうからです。認知症の親名義の家をリフォームして子が同居する、孫の学費を援助するといった、家族にとっては自然な支出も、本人のための支出と認められなければ難しくなります。
ここで押さえておきたいのは、これらの制約が「家族に冷たい」から生じているのではなく、本人以外の利益のために本人の財産が使われることを防ぐ仕組みだという点です。過去に親族による使い込みが後を絶たなかった歴史が、この厳格さの背景にあります。
家族の関わりに関するデメリット
制度を使う前は「家族である自分が後見人になればいい」と考える方が大半です。しかし現実には、家族の思いどおりにならない場面が数多くあります。
家族が後見人に選ばれるとは限らない
後見人を最終的に決めるのは家庭裁判所であり、家族が候補者として申し立てても、必ず選ばれるわけではありません。管理する財産が多い場合や、親族間で意見が割れている場合には、中立的な専門家が選ばれる傾向があります。最高裁判所の統計によると、親族が後見人に選ばれる割合はおよそ2割にとどまり、残りの多くは専門職が選任されているのが実情でしょう。「親のことは自分が」と考えていた方が、見ず知らずの専門家に財産管理を委ねる結果になることもあるわけです。
親族後見人には重い負担と監督がのしかかる
仮に家族が後見人になれた場合でも、負担がなくなるわけではありません。家庭裁判所への定期的な報告義務があり、年に一度、財産目録や収支の状況を書類にまとめて提出しなければなりません。慣れない事務作業は精神的にも時間的にも重く、本業や介護と並行して続けるのは容易ではないでしょう。
さらに、後見人による財産の私的流用を防ぐため、家庭裁判所や後見監督人による監督が続きます。まじめに管理していても、記録や報告を怠れば厳しく問われかねません。「家族なのに信用されていない」という感覚が、心理的な負担につながることもあります。
多くのデメリットを生んでいた「終われない」という構造

ここまで挙げてきたデメリットを振り返ると、費用の継続、財産管理の制約、家族の負担のいずれもが、ある一点に集約されていることに気づきます。それが、いったん始めると原則としてやめられないという「終われない後見」の問題です。
現行の制度では、後見が終わるのは本人が亡くなるか、判断能力が回復した場合に限られます。実務上、認知症が回復することはまれですから、事実上は本人が亡くなるまで続く終身制と言ってよいでしょう。実家を売る、遺産分割協議をまとめる、といった一時的な目的で始めた場合でも、その用事が済んだあとも後見は解けず、専門家報酬も家族の事務負担も延々と続いていきます。
この硬直性が、制度の利用そのものをためらわせてきました。認知症の高齢者はおよそ700万人とされる一方で、成年後見制度の利用者は2025年末時点で約26万人にとどまっています。判断能力の支援を必要とする人が大勢いるのに、制度を実際に使う人はごくわずかという大きな開きは、「終われない」ことへの警戒感が生んだ結果だと考えられます。
裏を返せば、デメリットの多くは個別に対処するより、この構造そのものが変われば大きく緩和されるということです。そして今、その構造が変わろうとしています。
2026年成立の法改正でデメリットはどう変わるか

成年後見制度は、2000年の創設以来はじめてとなる大きな見直しの局面を迎えました。2026年4月3日に民法などの改正案が閣議決定されて国会に提出され、同年6月17日に成立しています。施行は準備期間を経て2028年ごろが見込まれており、すぐに現行制度が置き換わるわけではありませんが、方向性は明確に示されました。出典は法務省・法制審議会民法(成年後見等関係)部会の資料です。
改正の最大の目玉が、目的を達成すれば終了できる、いわゆる「終われる後見」への転換です。不動産売却や遺産分割といった特定の目的のために制度を使い、その目的が果たされたら、本人の状況を踏まえて家庭裁判所が制度利用の終了や後見人の権限縮小を判断できる仕組みが想定されています。ここまで見てきた費用の継続や家族の負担といったデメリットの多くが、この一点によって緩和されるかもしれません。
そのほかにも、後見・保佐・補助という3類型を必要に応じた「補助」に一元化し、本人の状態に合わせて必要な支援だけを選べるオーダーメイド型へ近づける方向、相性が合わないときに後見人を変えやすくする新たな交代の仕組み、作業量に応じた納得感のある報酬体系への見直しなど、現行のデメリットに正面から応えようとする内容が並んでいます。
ただし、注意しておきたい点があります。「目的が終われば自動的に後見が終わる」わけではなく、終了させるかどうかの最終判断は、あくまで家庭裁判所が握っている点に注意が必要でしょう。たとえば遺産分割が済んでも、本人が多額の財産を相続し引き続き管理支援が必要と判断されれば、後見は継続されることもあります。制度が柔軟になるからこそ、どう使えば自分の家族にとって最善かを設計する目が、これまで以上に重要になるでしょう。
制度の柔軟化を先取りする実務上の工夫

法改正の施行を待たなければ何もできないかというと、そうではありません。実は司法書士などの専門家は、改正前から「実質的に終われる後見」に近い運用を工夫してきました。
その代表が、リレー型後見と呼ばれる手法です。不動産売却や遺産分割協議といった専門的な対応が必要な場面では専門職が後見人を務め、その山場を越えて日常の財産管理が中心になった段階で、後見人の役割を親族へ引き継いでいきます。専門職が担うべき部分が終われば家族のサポートに切り替えられるため、必要以上の専門家報酬がかかり続ける事態を避けられるのが利点でしょう。家庭裁判所の理解を得ながら進める必要があり、どのケースでも通用するわけではありませんが、負担を抑える現実的な選択肢の一つといえます。
こうした工夫ができるかどうかは、制度の入口の設計、つまり「何のために、どう使うか」を最初に描けているかにかかっています。改正でオーダーメイド型に近づくほど、この入口の設計の巧拙が結果を大きく左右するようになるでしょう。だからこそ、申立ての前段階での専門家への相談が、以前にも増して意味を持ちます。
成年後見以外の選択肢も視野に入れる

成年後見のデメリットが気になる方が、あわせて検討しておきたいのが別の制度です。目的によっては、成年後見よりも柔軟に対応できる方法があります。
一つが任意後見制度です。本人の判断能力が十分あるうちに、将来支援してほしい人と支援の内容を契約で決めておく仕組みで、誰に任せるかを自分で選べる点が法定後見と大きく異なります。もう一つが家族信託で、財産の管理や承継を家族間の契約で柔軟に設計でき、家庭裁判所の関与を受けずに資産の活用まで見据えられる点に強みがあるといえるでしょう。
ただし、いずれの制度にもそれぞれのデメリットや向き不向きがあり、万能ではありません。任意後見は発効時に別途監督人の報酬がかかり、家族信託は身上監護には対応できないといった限界も抱えています。判断能力が既に低下してしまった後では選べない制度もあるため、元気なうちに全体像を把握して備えておくとよいでしょう。どの制度が自分の家族に合うかは、財産の内容や家族関係、実現したい目的によって変わってきます。
どの制度を選ぶべきか、いつ誰に相談すればよいか迷ったときは、こちらの記事も参考になります。
成年後見のご相談は国松司法書士法人へ
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国松司法書士法人は、相続・遺言・成年後見の相談と手続きに27年目、累計20,000件超の実績があります。司法書士・行政書士・土地家屋調査士のトリプルライセンスを保有し、成年後見はもちろん、任意後見や家族信託、不動産が絡む手続きまでを一貫して見渡したうえで、ご家族にとって最適な組み合わせをご提案できる点が強みでしょう。制度が柔軟になるこれからの時代こそ、入口の設計が結果を左右します。
初回相談は無料です。国分寺市・国立市・府中市・小平市・小金井市など多摩エリアの方はもちろん、全国からのご相談も歓迎しております。判断能力に不安を感じ始めた今のタイミングで、一度ご相談ください。
【この記事の監修:司法書士國松偉公子】
プロフィールはこちらに掲載されています。事務所概要 – 国松司法書士法人【国分寺駅南口2分】
この記事の監修者
国松司法書士法人(クニマツシホウショシホウジン)
行政書士国松偉公子事務所
オールフォーワン土地家屋調査士事務所
代表者
國松 偉公子(簡易裁判所代理権あり)
兵庫県神戸市生まれ。神戸高校、大阪大学卒業後上京。民間企業勤務を経て司法書士資格を取得。平成12年に東京都国分寺市内で司法書士国松偉公子事務所を開業。国分寺市を中心とした東京多摩地域で、開業当初から相続に力を入れ、遺言・成年後見・家族信託という相続周りの業務含め26年間で2万件を超える相談、手続実績を重ねた。その間、ワンストップサービス実現を目指し、行政書士資格、土地家屋調査士資格を取得し、事務所を併設、合わせて司法書士事務所を法人化。ハウスメーカー、金融機関、会計事務所、不動産会社等との強固な信頼関係を築きながら、エンドユーザーである個人顧客の遺言作成支援や家族信託の組成等の生前対策に力を入れている。共著に「相続手続きと生前対策ハンドブック」「相続の基本と最新対策がわかる本」(いずれも株式会社アックスコンサルティング 出版局)「地主のための相続対策」(幻冬舎)がある。
資格
司法書士(東京司法書士会所属)、土地家屋調査士(東京土地家屋調査士会所属)
行政書士(東京都行政書士会所属)、民事信託士(一般社団法人民事信託推進センター)
成年後見人名簿・成年後見監督人名簿登載(家庭裁判所)
相続アドバイザー(NPO法人相続アドバイザー協議会)
財産管理マスター(一般社団法人日本財産管理協会)
一般社団法人家族信託普及協会会員
国分寺市政治倫理審査会元委員
国分寺市財産価格審議会委員
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当事務所のサービス
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